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シリーズ:危機管理と広報

 BERC主任研究員 萩原 誠ERC主任研究員 萩原 誠

第5回 日大のアメフト部悪質タックル事件の危機管理

2018年5月6日に東京調布で開催された、学生アメフト界の東西の名門、日本大学と関西学院大学の定期戦で、日大選手の悪質タックルによる負傷事故が発生した。この事故はその後の日本大学の危機管理(=広報)の考えられない失態の連鎖によって、アメフト部の問題から日本大学本体のガバナンス問題と日本のアマチュアスポーツ界の管理体制の根本的欠陥を問われる社会問題へと発展した。

アメフトのルールを少しでも知っている人なら誰でも理解できる"とんでもない"ルール違反のタックル(プレー休止の審判の笛が鳴ってから4?5秒後に相手QBに後ろから突っ込んで行った)であり、明らかに意図的な行為だった。このことは5月29日に発表された関東学生アメフト連盟の調査委員会の報告書で明らかになった。
 後に加害者である日大アメフト部内田監督に謝罪や真実を語る意思は全くなかったことが判明していく。事故直後の問題は、謝罪がないことへの関学アメフト部の抗議という部同士の問題だったものが、日大アメフト部の誠意を欠く対応によって事態は深刻化していく。5月23日、前日の宮川選手の覚悟の謝罪会見を見て、慌てて記者会見した内田監督とコーチの責任回避発言が(テレビ報道ラッシュによって)、世論の怒りへと発展した。ことはアメフト部だけの問題でなく日本大学の経営(ガバナンス)そのものが問われる事態になったのである。

≪両校の対応の経緯と問題点≫

月日 日大アメフト部 日大当局 日大宮川選手個人 関学アメフト部 問題点
5月6日 悪質な違法タックル発生 悪質な違法タックルで退場処分 被害選手全治3週間の負傷 日大側に謝罪の意思が全くなかった
11日 (宮川選手の申し出を)内田監督却下 被害選手への直接謝罪を監督に申し出
12日 日大の謝罪の意思表示がなく抗議の記者会見(抗議文送付)
15日 関学からの抗議文に回答書送付 内田監督の意図的な反則行為指示を全面否定
17日 (日大の回答書に納得せず)2回目の記者会見
18日 宮川選手(両親と)関学選手(と両親)に直接謝罪
19日 (宮川選手の謝罪を受けて)内田監督関学へ直接謝罪に出向く
22日 宮川選手謝罪会見(日本記者クラブ) 弁護士同席
23日 (宮川選手の謝罪会見を受けて)内田監督・宮川コーチ謝罪会見 日大広報部のお粗末な広報の仕切り 監督・コーチ悪質タックル指示を改めて否定
25日 大塚学長記者会見 騒ぎの拡散に慌てて会見、会見の意図不明確
29日 関東学生アメフト連盟調査結果の記者会見※

※関東学生アメフト連盟処分発表(20人の関係者ヒアリングを基本に監督とコーチの除名処分、ヘッドコーチ資格剥奪)。チームと宮川選手は1年間(2018年度シーズン)条件付き出場停止を決定。さらに2か月後の7月31日、連盟は、アメフト部の再発防止策の不備、大学当局の真摯な対応不足、部員の反省と自己改革の決意が不十分を理由に2018年度シーズンの出場停止処分を解除しないことを決定した。諸般の状況から妥当な判断と評価される。

【不祥事発生後の考えられないリスク管理】
明らかなルール違反のタックルで相手QBを負傷させたことを少なくとも数日以内に謝罪していれば、問題はこれほど大きくならなかった。(のちにもともと謝罪の意思がなかったことが判明した)
メディアが大々的に取り上げた後のすべての危機管理(+広報)の対応が後手後手で、「大学の権威と信頼を守る」という最後の砦が崩れてしまった。
責任者(この場合は明らかに田中理事長)が謝罪会見から逃げまくる対応である。日本大学の最高責任者である理事長は7月末現在でも謝罪・説明会見を開いていない。

【内田監督と日大を守るだけの危機管理広報】
 宮川選手の単独謝罪会見で慌てた内田監督は翌日、突然記者会見を行った。およそ名門日大アメフトの監督の器でないことが露見した。もっとも驚かされた発言は、「関学への謝罪は先方から電話が来るのを待っていた。そのうえで部と部の文書のやり取りで落としどころを決めればいいと思っていた」発言したことである。組織の幹部としておよそ考えられない非常識である。この緊急会見では元共同通信の論説委員長だったという75歳の広報部顧問の司会者が31回も記者の質問を遮った。ある記者から「こんな対応では日大のブランド(イメージ)が落ちますよ!」と言われて「落ちません!」と答えたのには会場から失笑のどよめきが起こった。その後25日に突然会見した大塚学長の泥縄の記者会見で、「私が運動部を統括する立場だからと」釈明したが、理事長を矢面に立たせないための取り繕いの会見であることは明々白々だった。

≪宮川選手の謝罪会見で辛うじて救われた"日大ブランド"≫
後に判明したことだが、5月11日に宮川選手は被害選手に直接謝罪に行くことを内田監督に相談したが拒否される。そこでおそらく両親や周辺の人と相談した上で、18日に両親とともに被害選手とその両親に直接謝罪に行った。その時点でアメフトをやめる覚悟と22日の謝罪会見を行う決意を固めていたと推測できる。直接の加害者である宮川選手の個人としてのこの判断と行動が"日大のブランド"をギリギリのところで守ったと言える。
第10代日本大学総長の瀬在幸安氏は"OB,OGが立ち上がり 田中理事長をやめさせよう"とFACTA8月号のインタビューに答えている。「母校の教職員が学生を守らず、自分たちの保身と組織防衛に走るなんて。恥ずかしさと怒りがこみあげてきました。唯一の救いは20歳になったばかりの学生が、多くの報道陣の前で正々堂々と勇気をもって「真実」を語り、何度も謝罪し、アメフトを断念すると語ったこと。涙が溢れるほど感動した。OBの誰もが、彼の姿を誇りに思ったはずです」

≪田中理事長のワンマン支配による日大のガバナンス不全≫  相撲部出身の田中理事長の考えられない強権支配が思わぬところから世間に露見した。すでに2012年ごろに総合誌「FACTA」で理事長と暴力団の交際のうわさが何回も報道されていたが、なぜかうやむやになっていた。日本大学は創立130年に合わせて「スポーツ日大」によるブランド戦略を強力に推進してきた。それは田中理事長の「相撲部」と内田筆頭常務理事の「アメリカンフットボール部」が二枚看板である。また34ある種目のうち、もっとも歴史と実績を誇る種目がアメリカンフットボールであることは自他ともに認められている。昨年27年ぶりに日本一になった名門アメリカンフットボール部の内田監督が田中理事長のお気に入りで日大の経営を担う理事会のNO2で人事担当だという話が、この事件後初めて世間の知るところとなった。不祥事発生から約1か月、これだけ大きな社会的問題になった不祥事案件について、未だに田中理事長は公の場に出て謝罪すらしていない。7万人強の学生を擁し、100万人以上のOBを抱える日大。系列校も含めて12万人の生徒・学生を擁し、国から100億円近い補助金を受けている学校法人のトップとしてはありえない話である。

≪最近のアマチュアスポーツの不祥事≫

時期 不祥事 内容 問題点他
2010 女子柔道日本代表チームのパワハラ生 園田監督解任 宗岡新日鉄会長の協会長就任でガバナンス回復、山口香筑波大学教授の存在
2016 社会人バドミントンチームの違法賭博選手 桃田選手1年余の出場停止処分 企業の監督責任
桃田選手は2018年に見事に復活した
2017 女子レスリング協会強化委員長のパワハラ 伊調馨・田名部コーチへの栄監督(強化委員長)のパワハラ レスリング協会幹部のリーダーシップの欠如
2018 ボクシング連盟の終身会長の恐怖政治 トップのパワハラ、組織の私物化 ワンマントップの存在を長年許してきた業界の体質
リオ五輪体操女子代表宮川選手へのパワハラ 塚原副会長夫妻へのパワハラ疑惑 塚原夫妻の疑惑を過去のウヤムヤにしてきた協会の体質


日本のアマチュアスポーツ界の危機管理(広報)の教訓

〇古き体育会系支配の"井の中の蛙"から脱出できない組織風土の蔓延
〇スポーツ界に蔓延するガバナンス不在・欠陥
〇体育会系の悪しきパワハラ・セクハラの蔓延
〇勝利至上主義の欠陥リーダーの跋扈
〇責任の所在が不明確なスポーツ界(文部科学省・スポーツ庁・種目別連盟・学校当局)

●萩原 誠(はぎわら まこと)
BERC主任研究員、広報コンサルタント
1945年鹿児島県生まれ。1967年京都大学法学部卒。帝人株式会社(マーケティング部長、広報部長)に勤務後、東北経済産業局東北ものづくりコリドークラスターマネージャー、日本原子力学会倫理委員、鹿屋体育大学広報戦略アドバイザー、静岡県東京事務所広報アドバイザーを歴任。
書著に「会社を救う広報とは何か」彩流社、「地域と大学~地方創生・地域再生の時代を迎えて~」南方新社がある。


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