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テレワークと企業倫理

 BERCフェロー 田中 均BERCフェロー 田中 均

はじめに
日本政府は少子高齢化による生産年齢人口の減少、欧米と比較した生産性の低さなどから、有給休暇取得の義務化、残業規制、総労働時間管理など「働き方改革」を推進している。なるほど国立社会保障・人口問題研究所によれば、2013年に8000万人あった生産年齢
人口が、2027年に7000万人(ピーク比13%減)2051年に5000万人(同38%減)となる。また、生産性についても日本生産性本部によると、2017年のデータでは米国の七割以下ということである。生産性についてはその国の産業構造によるので、一概に論ずることはできないが低いことは確かである。 そして、以上のデータからすると「働き方改革」は喫緊の大問題なのである。その一つの対策が「テレワーク」であるが、情報関連の費用支出や習熟のための工数負担を伴うことから普及しなかったが、2020年春の新型コロナの感染拡大によって拍車がかかってきた。ここではテレワークに対して企業倫理の観点から課題と対策を論じたい。

なお、労働政策研究・研修機構が2020年6月に発行した報告書によると調査対象の29.9%が「在宅勤務・テレワーク」を実施、1,000人以上の企業では51.2%が実施しており、職種別では管理職は60.3%、専門・技術職が38.6%、事務職が37.3%となっている。

筆者は、国内外に複数の工場と全国の県庁所在地に営業・サービス拠点を持ち、グループに商社も持つ企業で企業倫理や情報せキュリティに関わってきた。官公庁から私企業までの顧客を持ち、製品の企画設計製造から現場常駐まで幅広い業容に対して見聞してきたので、少しは参考になるのではないかと思う。

■ 参照サイト
・日本の将来推計人口(平成29年推計)
 http://www.ipss.go.jp/pp-zenkoku/j/zenkoku2017/pp29_gaiyou.pdf#search=%27
・新型コロナウイルス感染拡大の仕事や生活への影響に関する調査
 https://www.jil.go.jp/press/documents/20200610.pdf
 上記の改定速報
 https://www.jil.go.jp/press/documents/20200716.pdf

テレワークとは
さて、テレワークには、在宅勤務、外出先勤務、サテライト勤務があるが、いずれも社員が会社の事務所から離れて業務を行う。そのため、労務管理、セキュリティを重視した情報通信システムの運用、執務環境の整備の三本柱を確立・維持しなければならない。

労務管理
労務管理については、社員側からは「仕事と仕事外の切り分け困難」と「長時間労働になり勝ち」の二点。企業側は「労働時間管理が困難」という課題が上がっている。通常の労働時間と残業時間をPCのログイン時間で確認・記録することは厚労省の「労働時間の適正な把握のために使用者がこうずべき措置に関するガイドライン」で原則的な方法として挙げられているが、そのガイドラインでは「使用者が、自ら現認する」ことと「客観的な記録」を原則としている。また、やむを得ず自己申告制を採用する際についても使用者がこうずべき措置が定められている。一般的には社員が社内のサイトにテレワークの日付と時間帯を申請、開始時と終了時に上司へメールまたはサイト登録するという手順であろうか。

不就労やサービス残業に対しては、高度なシステムを利用すると社内データへのアクセスログやメールの受発信を分析してその勤務状況を把握することもできるようである。
また、アイボール・コンタクトといって、実際に対面で社員間の交流を図ることが望ましいが、今は簡便なテレビ会議システムがあるので、円滑な社員の情報交換を図るために、わざわざ仕事外の無駄話タイムを設けている企業も散見される。テレビ会議を通じて朝礼や終礼を行うことも一考かと思う。
なお、テレワークで特筆すべきは業務時間中の「中抜け」の扱いである。特に自宅勤務の場合は平日の日中が便利な医療機関や役所、銀行、郵便局を利用する機会があるので、予め就業規則で定めておく必要がある。
なお、フレックスタイム制については、社員の自主性を重んじる立場から推奨されているが、かえって生活が不規則になる場合もあることや、社員間のリアルタイムでの連絡に不都合が生じることから一旦採用したものの、その後に廃止した例がある。業種、職種による条件の違いもあろうが採用するとしても慎重を期したい。
なお、厚生労働省から「テレワークにおける適切な労務管理のためのガイドライン」が発行されているので参照されたい。

■参照サイト
・日本テレワーク協会 テレワークとは
 https://japan-telework.or.jp/tw_about-2/

情報セキュリティ
次に、情報セキュリティであるが、PCとそれに接続するスマートフォン、USBモデムは企業から支給することが大前提である。個人のPCを使用する場合は、ウイルス対策としてのソフトウエアのバージョン管理は保証されておらず、また家族が誤って不適切なサイトにアクセスしてランサムウエア(身代金要求型ウイルス)に感染したとしたら、データ損失被害は計り知れない。
また、会社システムへの接続もVPNを介することは大前提である。自宅のWi-Fiや公衆のWi-Fiはパスワードで接続が管理されている場合であっても、その管理者やその共同利用者からのアクセスの機会がある。つまりは情報漏洩の危険性があるという事である。したがって、自宅にあっても会社からUSBモデムを支給してそれを使用させることが望ましい。
それでも、社員が会社支給のPCを自宅で使用中に席を離れ、その一瞬に子供が不適切なサイトにアクセスして事件となった例があるので、住宅事情もあろうが自宅であっても、できれば鍵のかかる個室でPCに向かうことが望ましい。
最近は減って来たが、新幹線や通勤電車の中で重要書類を閲覧したり、作成しているサラリーマンを見かけることがある。そういう場面に出会すと覗き見したくなるのが人情であり、そうしなくても実際にある一部上場企業と某社の共同事業のパワーポイントを見たくもないのに見せさせられたことがある。ましてやスターバックスやマクドナルドでこれ見よがしにノートPCを開いている会社員には苦笑を禁じ得ない。

筆者がPCや携帯電話の紛失の届出窓口をしていたのは、一時代前であるが、今はPCのストレージの暗号化を実施してあるので、紛失や置き忘れによる情報漏洩の恐れは格段に小さくなった。
加えて、データファイルをPC内に保存せず社内のサーバに置く実質上のシンクライアント化によって紛失や盗難への備えはかなりできてきたと考えても良いだろう。
但し、統計によるとセキュリティー事故の数の点では「紛失・置き忘れ」が一位で、その比率が増加傾向にあることは留意されたい。仮にIDやパスワードが書かれたメモが一緒に紛失していたらどうなるかも考えておきたいものである。
また、ウイルス対策ソフトのバージョンアップも含め、全てのソフトウエア管理を管理部門から遠隔で実施することによって、ソフトウエアの面ではセキュリティー対策がある程度まで出来てきたと考える。

ここで残るのは、IDとパスワードの管理である。PCにログインするためのIDとパスワード、VPNに接続するためのIDとパスワード、そして社内システムにログインするためのIDとパスワード、都合三種類の組合せが必要であり、定期的にこれらを変更していくことが肝腎であるが、それらをまとめて一ヶ所にメモを残したりすることは避けるように社員への教育指導が必須である。かなり以前から定期的にパスワード変更を促すソフトウエアがあって、変更しないとカウントダウンが始まり、最後にはシャットダウンしてしまうものがある。

さて、最近の事例で増えて来たのは取引先や業務委託先からの情報漏洩の事例である。日本年金機構が個人情報500万人分の入力を委託した企業が、さらに下請けの中国企業に委託していたという事件があった。最近では情報関連の委託先企業には再委託を禁じるか、再委託先を明示するするようになっているが、それらの企業もテレワークを恐らく実施しているに違いなく、その場合は、委託先、再委託先とも新たにテレワークに関する情報セキュリティー監査を実施しないと禍根を残すことになる。
なお、ISOの個人情報保護の認証は、保護システムの形と運用が規格に合致しているかを問うものであって、品質管理のISO認証を取っているから品質が良いという保証はないのと同じで、現地で現場を査察し現実を把握しないとセキュリティーは確保できない。

枚数に限りがあるので、詳細は情報処理推進機構のサイトにある「テレワークを行う際のセキュリティ上の注意事項」を参照されたい。

■参照サイト
・情報処理推進機構 テレワークのセキュリティ上の注意事項
 https://www.ipa.go.jp/security/announce/telework.html

業務環境
最後が、在宅勤務の環境である。古くは「VDT(Visual Display Terminals)作業における労働衛生管理のためのガイドライン」が昭和の年代に当時の厚生省から発行され、平成14年に改訂されているので、詳細は確認されたいが、照明及び採光、グレアの防止、などから椅子、机、さらには健康診断などが挙げられており、「在宅ワーカーに対する配慮事項」を設けているが、「VDT作業ウィ行う在宅ワーカーの健康確保のため、在宅ワーカーに対して本ガイドラインの内容を提供することが望ましい」と記載されているだけである。しかし、在宅業務の場合は個人宅の環境であるので、ガイドラインに合致しているのかの確認を具体的にどうするのかが各企業に問われている。より深く論ずると、企業は在宅の職場環境の水準を維持管理する義務があるといえる。

例えば照度については、高価な照度計を使わなくともスマートフォンのアプリで照度計がある。精度の保証はないと思われるが目安にはなるし、出社時に本物の照度計で校正をしても良いのではないか。

また、企業によっては椅子や机を支給する例もあるらしいが、加えて液晶モニタを支給、または資金提供することを強く勧めたい。自宅に持ち帰るPCはノートタイプが多いと思うが、これに外部モニタを接続すると効率が上がり、作業者の疲労も低減されることはよく知られている。できればA4用紙が2枚並べて表示できる24インチ程度のモニタを推奨する。一万円と少しの投資はすぐに回収できる。

前述のガイドラインには作業姿勢にまで言及しているが、VDT作業者の疲労は姿勢によって大きく左右されることは自明である。会社が椅子を支給するということは、会社が社員の健康(と効率)を重要視している証拠と言えよう。テレワークが一過性のものではないと考えるのであれば投資に値すると思われる。

■参照サイト
・情報機器作業における労働衛生管理のためのカ?イト?ラインについて 令和元年7月12日発行
 https://www.mhlw.go.jp/hourei/doc/tsuchi/T190718K0020.pdf
・同上の説明
 https://www.jaish.gr.jp/anzen/hor/hombun/hor1-60/hor1-60-23-1-0.htm
・デュアルディスプレイでどのくらい生産性が上がるのか
 https://www.scsac.co.jp/case/column/dual-display
 ここからマイクロソフト社など各社の報告書へリンクできます。

最後に
テレワークは、情報通信技術の発展と初期及び運用費用の低下に支えられて実用性が高まり、新型コロナの影響でにわかに普及が促進された感がある。また、オフィスコストの低減、生産性の向上、豊かなワークライフバランスの実現など明るい面が強調されている。
しかし、人は集団で活きる動物であって、日頃から対話や会話を怠ると本人の能力が落ちるだけでなく、他人から触発されて湧き出る新たな発想の機会を失うことになる。
Apple社がカリフォルニアに巨大な本社を作り社員を集中させ、Googleの日本法人の渋谷本社は賃貸ながら各階の上下移動を容易するようにビルを大改造していると聞く。テレワークに相反するようなこれらの動きは何故かを考えてみることも大切であろう。
今後のテレワーク環境は、今後も、5G通信、4Kや8Kのモニタの普及で変化していくであろうが、生身の人間が中心にあることを忘れずに環境を整えていきたいものである。


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