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実践経営倫理塾 『何をもってCSRの評価とするか』 ?CSRとSRI?


『何をもってCSRの評価とするか』 ?CSRとSRI?

BERC主任研究員 星野邦夫

7.SRIアンケートに対する回答の実務

 上場企業のIR(インベスター・リレーションズ、投資家向け広報)部署またはCSR部署にいると、年に1回または2回、SRIに関連するCSRアンケートが送られてくる。SAM社、EIRIS社、パブリックリソースセンター、グッドバンカー、日本総研など、その数、数社(機関)から10数社(機関)にも及ぶ。
 アンケートの発行もとが日本の調査会社やNGO・NPOの場合は日本語で書いてあるから言葉の問題はない。しかし、国際的なSRIの調査機関となると通常英語の電子メールでアンケート票を送ってくる。アンケートの中身ももちろん英語である。広報やIR(インベスター・リレーションズ、投資家向け広報)部署では普段聞きなれない専門用語がたくさん登場するのでまず困惑する。特にリスクマネジメント、製品管理、人財育成などの項目にはわかりにくい専門用語が多い。
 質問数は50問から100問くらいあり、それぞれにエビデンス(公表している事実)を要求されるので、とてもIRや広報部署だけではこたえきれない。DJSIの場合を参考にすると、アンケートの回答は以下のような専門部署に振り分け、その回答を集約することになる。ざっと見ても10部署くらいになる。

標準的なアンケート項目

標準的な回答部署

コーポレートガバナンス

経営企画室

研究開発の有効性・効率性

研究開発部署(経営企画室)

行動規範・コンプライアンス 

コンプライアンス部署( CSR 部署)

リスク / クライシスマネジメント 

リスクマネジメント部署( CSR 部署)

会社が起こした法令違反・不祥事

法務部署(広報部署)

顧客対応 

顧客対応部署(マーケティング部署)

環境マネジメント

環境管理部署

環境ビジネス推進の計画と実績

マーケティング部署

労働慣行

人事部署

人財管理・人財育成 

人事部署

人権・ダイバーシティー 

人権推進部署(人事部、 CSR 部署)

サプライチェーンマネジメント

CSR 部署

労働安全衛生 

労働安全衛生部署(人事部署)

社会貢献活動 

社会貢献推進部署 (CSR 部署、総務部書)

ここで注意すべきことを以下に列挙する。

(1) CSR情報の集約体制

海外や国内のグループ会社を含め、CSRに関する全情報が集まってきてデータベース化され、必要とあればCSR統括責任者が迅速に相談や指示ができる体制、いわば「CSRガバナンス」の体制を作らなくてはならない。
しかし合併や買収などで新たに参入してきたグループ会社はなかなか情報を出したがらない。例えば「社員の被雇用能力向上のための研修を何時間やったか」、「派遣社員を何人使っているか」、「女性管理職の数と推移はどうか」、「社会貢献にいくら拠出したか」などを聞くと、「我々は業務で忙しい。ホールディングはなんでそんな細かいことまで聞いてくるのか」と反発される。SRI投資家が知りたがっている情報なのだと説得する。

(2) 企業秘密の扱い

アンケートは企業秘密と思われそうなことも聞いてくるので、黙っていると専門 
部署は「それは企業秘密、余計なお世話」と思って「開示できない」を選択することが少なくない。開示できない場合は合理的な根拠を書かなければならない。もちろん開示した方がスコアはよくなるが、理由を書かず開示しないのは最低となる。

(3) 調査範囲の明示

アンケート回答について調査した範囲を明確にしておくこと。日本の大企業はグループ会社が数10社から数100社もあり、毎年買収や合併で増減を繰り返している。全グループ会社のCSR関連の実績を完全に把握するのは事実上不可能である。アンケートの個々の項目に対し、「この数値はグループ80社を対象、社員数で全社員数の90%をカバーのデータ」などと書いておくと透明性が高まる。

(4) 定量的に表現できない場合

定量的に十分把握できていないが先進事例があるというような場合。「いくつか事例があるが、最も顕著な事例として以下をあげる。・・・・」などと書けば奥行きがあると感じられる。定量的に把握できてないから何も書かなかったというのは最低である。

(5) 社会貢献活動の扱い

社会貢献活動の把握はなかなか難しい。と言うのは社員が個人でやっているボランティア活動と、会社が何らかの支援をしながら有志社員がやるボランティア活動を仕分けなければならない。当然ながら前者は会社のカウントする社会貢献活動にはならない。また、グループ会社が支援しているにもかかわらず何か文句を付けられるかもしれないと考えてホールディングに報告してないということもある。あるいは、それは社会貢献活動ではない。企業宣伝のためのイベントだろうという場合もある。 
したがって、社会貢献活動はこうだと会社として明確な定義づけをしたうえで、周知し、毎年定期的にホールディングの専門部署に報告させる仕組みを作っておくことが必要である。

(6) 戦略的なCSR報告書

最後に、エビデンス(公表している事実)をどう提供するかである。多くのSRIアンケートは個々の回答に対して、そのエビデンスを付けるよう要求してくる。質問ごとにバラバラにエビデンスを付けるようなことでは効率が悪いし、相手もたまったものではない。
そこでSRIアンケートのエビデンスとして耐えうるCSR報告書をあらかじめ作っておくことが何より大切となる。私は以前、会社のCSR報告書の編集長だったので、DJSIやFTSE4GOOD、MS-SRIなどのアンケートで聞かれた重要事項は可能な限り翌年のCSR報告書の記事やデータに取り込むようにしてきた。その結果、3?4年のうちに、どのようなSRIアンケートがきてもその回答の90%以上はエビデンスとして、「○○年版CSR報告書の××ページで公表」と書けるようになった。結果としてSRIアンケートへの対応実務は飛躍的に効率が上がった。
よく、「あれだけの手間と費用をかけてCSR報告書は誰のために出すのですか」という素朴な質問をする人がいる。私は、迷わず「社員の啓発と投資家への情報提供」と答えてきた。実は投資家と言っても特にSRI投資家を意識してきたのである。

8.SRIアナリストの本音

私は幸運にも2008年の2月に、ジュネーブのSAM社とロンドンのEIRIS社を訪問してそれぞれのアナリストにインタビューする機会を得た。すでに述べてきたように前者はDJSIの調査会社であり、後者はFTSE4GOODの調査会社である。
その時にCSR、SRIに対する彼らの考え方の本音を聞けて大いに参考になったのでここに一部を紹介する。

(1) NGO・NPOの役割

SRIアンケートでは人権や労働慣行の項で、CSRに関係する世界的チャーター(憲章)に署名しているかを聞いてくることがある。私は以前「貴社はグローバルコンパクトに加入していないが、それはCSRの評価として低くなる。それでもよろしいか」という連絡を受けたことがあった。その話を持ち出して「グローバルコンパクトは経営トップが支持を表明してホームページやCSR報告書でサインを公表すればそれで有効と聞くが、調査も監査もない結構いい加減なものではないか」と言った。それに対しアナリストの答は、「トップのコミットメントが何より大切。そうすればトップの言っていることと会社のやっていることが一致しているかどうかは各国のNGO・NPOがチェックしてくれる。それが効率的であり、それで十分なのだ」であった。あらためて欧米におけるNGO・NPOの力と役割を教えられたと思った。

(2) 社外取締役の役割

欧米の企業に比べ日本の企業は一般的にコーポレートガバナンスが弱いと言われる。取締役一人一人のコミットメントが無かったり、個人別報酬の開示が無かったりする、加えて社外取締役についても極端に報酬が少なく、何をしているのかわからないことが少なくない。それについて私は「社外取締役の役割とは、社外つまり社会の立場から経営施策の妥当性についてチェックするということではないか」と尋ねた。それに対し、アナリストは「社外取締役は、監査役のような立場とはまるで違う。社外(社会)の立場で企業価値の向上のため全力で取り組む、つまり会社が儲かるようにしっかり働いてもらわなくてはならない」と言った。確かに社外取締役は監査役とは違うはずだと自分の不見識を恥ずかしく思った。

(3) 不祥事の扱い

SRIのインデックを見ていると世界的に有名でCSRとしても実績のある企業が突如ばっさりと削除(Deletion)されることがある。前に言及したようにDJSIでも、FTSE4GOODでも削除理由を1ワードで公表している。しかし詳細の説明はついていない。該当企業は問い合わせれば教えてくれるのだが、不祥事を起こしても採用されている企業もあり、さしたる不祥事ともいえないのに削除される企業もある。そこで不祥事の扱いはどのようになっているのかを聞いてみた。
答えはこうだった。競争の中で利益を上げようと各社しのぎを削っている中である意味、事件や事故は完全には避けられない。アナリストが注目するのは、
? 日頃からリスクマネジメントの仕組みや教育・訓練をしていたのかどうか
? 事件・事故発生に際し社内外に事実を公表したか
? 関係者並びに管理責任者に適正な処分を下したか
? 適切な再発防止策を講じたか
とのことであった。だから不祥事があったら自動的に削除(Deletion)と言うことではないとのこと。
SRIは持続可能な社会の構築を促進するポジティブスクリーニングなのだということを改めて知った。

終わりに、私は一企業で定年まで、また定年後は嘱託として創生期のCSRに関連する実務にたずさわってきた者である。そこで現在CSR/SRIの実務にたずさわっている方々に何か伝えられることがあればと思い本稿を書かせていただいた。雑駁な話に最後までお付き合いくださった方々に、心から感謝を申し上げたい。

以上

≪参考文献≫
谷本寛治(編著)『 SRI 社会的責任投資入門』(日本経済新聞社)
SIF-JAPAN ホームページ: http://www.sifjapan.org/index.html
モーニングスター社会的責任投資ホームページ: http://www.morningstar.co.jp/sri/index.htm
Dow Jones Sustainability Indexes ホームページ:
http://www.sustainability-index.com/07_htmle/data/djsiworld.html
FTSE THE INDEX COMPANY ホームページ:
http://www.ftse.com/japanese/Indices/FTSE4Good_Index_Series/EIRIS.jsp
Forum ETHIBEL ホームページ:
http://www.ethibel.org/subs_e/4_index/main.html


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