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実践経営倫理塾 『東日本大震災からの教訓:新しい事業継続計画(BCP)とは?』

『従来のBCPがあまり役に立たなかった理由』

上席研究員 吉田 邦雄 

第II章.これからの事業継続計画(BCP)の基本的方向性

◆ はじめに

<事業継続計画(BCP)のはじまり>
企業存続の要諦は「リスク管理」にある。それは“まさか”という想定外や最悪事態を想定することからすべてが始まる。

1.事業継続計画(BCP)への再認識

今回起きたM9 巨大地震のエネルギーがあまりにも大きすぎた為、他のプレートや活断層が刺激され、日本が本格的な地震の活動期に入ったとの専門家予測がある。今後30年の間にM7級の大地震が関東地方に起きる確率が70%と言われており、いつ起きても不思議ではない首都圏直下型大地震の場合その被害は想像を絶するものとなろう。
そして、今後さらに危惧されるのは、東海地震 、東南海地震、南海地震との連動型地震の可能性である。
いずれの大地震も 「想定内」と考えられても、前者には東海原発(茨城県)、後者には浜岡原発(静岡県)が近くにあり、想定外の事態、すなわち、巨大地震発生の場合、今なお続く福島原発事故のさらなる拡大に加え、新たに、東海原発または再稼働後?浜岡原発の事故が重なった場合、まさかの首都壊滅という絶望的な見方も出てきている。
これらの背景から、企業経営者が、昨今、「まさか」という想定外や最悪事態を想定し、BCP/BCMの重要性をあらためて認識しはじめた所以はここにある。企業は、現在、効率化を追求し徹底的なコスト削減を行うため、生産拠点や物流拠点、取引先等を集約せざるを得ない状況に追い込まれている。このことは一方で、その拠点や取引先に大震災のような大きな障害が発生した場合、代替拠点や取引先の手配を困難にし、基幹事業の停止に直結する確率が格段に増加していることを意味する。
今回の東日本大震災で、自動車部品メーカーの部品供給が停止したために、トヨタ、日産、ホンダ等自動車メーカーの操業が一斉に停止してしまったなどという事象は記憶に新しい。企業にとって重要な視点は、従来、想定外と言われた領域のBCPを机上のプランに終わらせることなく如何に企業内に浸透させていくか、戦略的に活用していくか、今、正に経営者の決断と行動にかかっているといっても過言ではない。

2.「想定外」という“言い訳”

被害想定の際、地震や津波を政府・中央省庁・自治体のハザードマップを採用することが多い。今後、このハザードマップより大きな被害が起こりうることも企業によっては想定しなければならない。
  企業独自のリスクを想定し可能な限り対策を講じなければならないが、ハザードマップにない、政府・中央省庁・自治体の“想定内”を超えているという理由で、経営者は株主等ステークホルダーに 対する責任を免れることはできない。すなわち、株主総会で会社法上「取締役の善管注意義務違反」という形で責任追及されかねない危険がある。 原発事故についても、“想定外”ではなく、原子炉本体が安全に停止できたとしても非常用電源を含めた周辺設備が弱点となることは2007年の中越沖地震で明らかになっていた。今後、企業はいわゆる想定を超えた被害が起こりうることも視野に,被害最小化を狙ったBCPを策定する必要がある。    

3.「損失の危険管理体制」の形骸化

マグニチュード9.0クラスの巨大地震は世界レベルでみると、100年の間にチリ地震(M 9.5)、アラスカ地震(M 9.2)等6回も発生しており、今後も発生しうる規模といえよう。今回の大震災に続いて起こりうる我が国における巨大地震は前述の首都圏直下型地震や東海・東南海・南海地震の連動型地震といわれている。
日本では、会社法、金融商品取引法などにより求められる内部統制システムの構築、とりわけ、損失の危険管理体制の整備が求められてきた。しかし、企業にとって、上記クラスの巨大地震に対する備え、例えば、BCPの計画内容が妥当であるか、適切な経営資源を投入しているか、社内外における説明責任を十分果たしているか・・・等管理上の甘さ、形骸化、認識不足がないか総点検を必要とする。

4.全国的且つ大規模なサプライチェーンの寸断・壊滅

今回の大震災では、極めて幅広い業種、とりわけ、前述の自動車産業あるいは電子部品業界における物流インフラの被災が日本国内だけでなく、中国、アジア、欧米諸国の生産まで深刻な影響を与えてしまった。
これは、東日本地域における内陸部の大きな地震動により、多くの製造工場が壊滅的な打撃を蒙ったが、一次から三次/四次までの部品原材料調達先の把握が十分できなかったことが被害を大きくしてしまった。
言い換えれば、多くの調達先の同時被災により、サプライチェーンの被災状況の全貌に時間を要したことが結果的に大きな影響を与えてしまったのである。このような現実を踏まえ、今後の教訓としてサプライチェーンの整備・対応に注力しなければならない。
現在、経済産業省はサプライチェーン強化策として、部品生産拠点の分散化投資に対する補助金制度を検討している。

このような教訓から、次章では、従来型のBCPではなく、いわゆる“想定外”の緊急事態発生時に対応できる新しいBCPのあり方はどのようなものか考察する。

(用語の定義)
・BCP(Business Continuity Plan)

企業が自然災害、原発事故、大火災、テロ攻撃などの緊急事態に遭遇した場合において、事業資産の損害を最小限にとどめつつ、中核となる事業の継続あるいは早期復旧を可能とするために、平常時に行うべき活動や緊急時における事業継続のための方法、手段などを取り決めておく計画をいう。

・BCM(Business Continuity Management)
BCPを策定し継続的運用するマネジメントシステムをいう。?事業の理解、?BCPサイクル運用方針の作成、?BCPの構築、?BCP文化の定着、?BCPの訓練、BCPサイクルの維持・更新、監査といった活動をPDCAサイクルとして継続的に行い、向上させることをいう。

(注2)参考文献
・2005年6月経済産業省商務情報政策局『事業継続計画策定ガイドラインの概要』HP
・2011年5月東京海上日動リスクコンサルティング(株) HP『リスクマネジメント最前線2011-16』
・2011年4月浅井 隆著 『地震・災害 財産防衛マニュアル』 第二海援隊
・2006年4月古長谷 稔著 『放射能で首都圏消滅』 三五館

II.“想定外”に強い事業継続計画(BCP)(注3)

デロイト ト?マツ リスクサービス(株)社長久保恵一氏は、次のように、これからのBCPのあり方・変遷をセミ
ナー等通じて紹介している。

1.これからのBCPのあり方

これまでは防災計画的なBCPであった。特定の災害(例:首都圏直下型震度6強)を想定し、初動対応+復旧計画が中心。これからは、以下のような「想定外」にも耐えるBCPが重要となる。
・事業インパクト分析:重要事業の識別、重要事業の目標復旧時間の設定 ・最悪の被害想定による事業継続・復旧対策立案
・シミュレーション、訓練
・PDCAによるBCM(事業継続マネジメント)の実施

2.BCPの変遷

1)第1世代:脅威ベース・シナリオベース
脅威別・シナリオ別にBCPを作成するので、BCPが幾つも出来てしまう。デメリットは想定外の脅威への対応 が困難となる。

2)第2世代:リソース(経営資源)ベース
重要業務の遂行に必要な経営資源(人、モノ、IT,外部委託先等)に注目し、経営資源自体の継続性を重視する。BCPは脅威別・シナリオ別に作成されているわけではなく、想定外の脅威にも柔軟な対応が可能となる。想定外の脅威に対応できるが、デメリットは個別の具体的手順を整備する必要あり。
地震、津波、火災、新型インフルエンザ、サプライチェーンの寸断等の脅威は、経営資源が得られなくなる原因となる。その原因に拘ると「想定外」に対応できない。原因は別にして、経営資源が得られない場合の対策を検討する方法。

3)第3世代:通常業務への組込みベース
平時、緊急時にかかわらず、通常の業務の対応の中で業務の継続性が確保される。

上記3)のBCPは、自動車メーカーの一部に、日常の改善活動の中で可能な限り緊急時にも対応できるよう導入しているケースがみられる。原発事故のような特殊な緊急事態には対応困難となるかもしれないが、上記3つのケースの中では最も優れていると考えられる。しかし、会社の業種、業態、規模、経営方針、企業文化等により、具体的な対応はいろいろ考えられるため、新しいBCPを策定するには各社の更なる創意工夫が求められよう。このため、次章では、内閣府「事業継続ガイドライン」をベースに、これからの新しいBCP策定の留意点を考察していきたい。

(注3)参考文献
・2011年6月久保恵一作成講演資料『BCPにおけるリスクアセスメントと内部監査の要点』デロイトト?マツリスクサービス(株)

吉田邦雄上席研究員のプロフィール

※次回は、「第?章.新しい事業継続計画(BCP)策定上の留意点」をお届けします。


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