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実践経営倫理塾 「経営倫理と内部監査」


実践経営倫理塾 「経営倫理と内部監査」

BERC上席研究員 貫井陵雄

第2回 企業倫理を再考する

 「倫理」とは何かという問いに答えるのは容易ではないと思います。なぜなら、その言葉は極めて抽象的概念であるばかりでなく、個々人に内在する精神的・内面的な概念に依拠する言葉でもあるからです。

 一般的に「倫理」とは、「人の踏み行うべき道」と解され、具体的には、「まじめ」、「思いやり」、「誠実さ」「悪いことをしない」「天下に恥じない言動」などの言葉で用いられることが多いようです。

 一方、「経営倫理」と同義語と理解している「企業倫理」という概念もまた難解であります。しかしこれも、英語の「Integrity」で表現されるように、「誠実さ、高潔、まじめ、首尾一貫など」と解釈されています。ちなみに米国の多くの経営者は、なにかと「インテグリテイ」を好んで口にします。

 では企業が「倫理的である」とはどのような意味なのでしょうか。また企業は、何故に「倫理的でなければならない」のでしょうか。多くの企業では、「企業倫理綱領」を策定し、その組織構成員にたいして「企業倫理行動規範」を設け、その遵守や浸透・定着を図るよう、企業内倫理教育を熱心に進めています。それは何故なのでしょうか。

 その答えの一つが、「当社では、企業不祥事を起こさないため、会社の信頼を失うことのないよう、日頃からの倫理教育訓練を実施しているのです」と答えれば、合格点に近いでしょう。

 高巌・麗澤大学教授は、「企業に『誠実さ』が求められる理由は、企業は社会に対して、たえず『信認義務』を負っているが故である」と述べておられます。

 このフレーズには、企業の絶えざる事業活動において「社会との共存」を意識しながら、「誠実な企業」を希求する根源的な理由を意味していると汲み取れます。

 そのために、企業は社会にたいして「企業倫理の精神」を宣言し、トップおよびその組織構成員や、その企業に関係するすべての人と集団(グループ)にたいしても、絶えざる「企業倫理教育」を実践しているのです。

 脱線しますが、上記の「企業倫理憲章」の主語は企業という組織体であり、「企業倫理行動規範」の主語ないし実践者は、そこに働くすべての組織構成員一人ひとりであることに、平素気づかない方が多いのではないでしょうか。

 また、企業倫理を以下の角度から承知しておくのも有意義だと思います。

 企業倫理の確立は、企業活動の頂点に位置するとし、誠実な組織作りを提唱した、A・Bキャロルのピラミッドモデルがある。かれの「企業が守るべき社会的責任」の考え方は、依然として賛同できる議論だと思います。

 一方、組織構成員の「誠実なひとづくり」について、S・ペイン教授は、『シェアバリュー論』における、「コンプライアンス戦略」を超越した「誠実さを希求する戦略への転換」を論述されています。これらは、大いに参考になるでしょう。

 ところで、「企業倫理」という言葉とほぼ同義語的に使われている言葉に、「コンプライアンス」なる用語がありますが、それは決して同義語ではありません。

 そもそもコンプライアンスなる言葉は、ラテン語の「complere」である「満たす」とか、「十分にする」を語源としています。したがって、英語に転じた「コンプライアンス」は、応諾、従順、厳守、相手の期待に応えるなどが本意であり、我々がよく使う「法令順守」はコンプライアンスの意味の一部に過ぎないのです。

 コンプライアンスの本来的な意味について郷原信郎・横浜桐蔭大学教授は、次のように定義づけています。すなわち、「コンプライアンスとは、組織に向けられた社会的要請に鋭敏に反応し、企業目的を実現していくことである」と。ちょっと待って下さい。この郷原先生の定義によれば、コンプライアンスは企業の社会的責任(CSR)の規定付けと本質的には少しも変わりがないではないでしょうか。その通り、コンプライアンスもCSRもその論ずる理論的原点は同じなのです。

 ちなみに、コンプライアンスという言葉が我が国へ初上陸したのは、1987年に発生した某大手電器メーカーのココム事件(共産圏への禁輸事件)がきっかけで、同時に、コンプライアンス・プログラムも導入されたのです。


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