BERC:一般社団法人 経営倫理実践研究センター

クラトレ 参加者感想(2026年1月)

生命保険会社社長役

パナソニックホールディングス株式会社 エンタープライズリスクマネジメント室 上條 和紀 氏


 今回のクライシス・シミュレーション・トレーニングでは、約50万人分の病歴情報およびクレジットカード番号が流出するという、想定するだけでも極めて厳しいシナリオを題材に、それぞれのお立場から事前準備の段階より率直かつ実践的なお考えをお聞かせいただきました。当日も終始ヒリヒリとした緊張感の中で、実際の危機対応を強く想起させる非常に深い議論が交わされました。その結果、本トレーニングは参加者にとって極めて有意義な機会となりました。

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 特に印象的であったのは、会見対応における記者役の方々からの質問の鋭さです。形式的な想定問答では対応しきれない、本質を突く問いが次々と投げかけられ、こちらが最も懸念している弱い部分を的確に突いてくる点に、プロフェッショナルとしての力量を強く感じました。こうした問いに向き合うことで、より実践に近いものとなり、本トレーニングの価値を一層高める結果につながったと感じています。

 会見対応の進め方については、情報がなお不確かな状況下においても、可能な限りの情報を社会に提供するという観点から、三社合同で臨む選択肢を優先しました。一方で振り返ると、初動においては元請である生命保険会社が主体となり、まず一社として説明を行う形も、社会への適切な対応や分かりやすさの面では有効な選択肢であったと思います。責任を引き受ける姿勢を明確に示すことが、信頼回復の起点となるという点も、重要な示唆であったと受け止めています。

 さらに、高野先生による追加の情報・イベントでは、意思決定の方向性が大きく揺さぶられ、短い時間の中でも容易に結論を出せない状況が続きました。そのプロセスを通じて、不確実な情報下において最終的な答えを出さなければならない経営者の重責を、実感を伴って理解することができました。この点も、本トレーニングならではの貴重な学びであったと感じています。

 不祥事は完全に避け切れるものではありません。だからこそ、万が一発生した際にどのように向き合い、誰がどの責任で判断するのかを、平時から具体的に議論し備えておくことが不可欠と思います。本トレーニングで得られた多くの示唆を、今後のガバナンスおよび危機対応力のさらなる強化にも活かしていきたいと考えております。

 本研修の企画・設計から当日の運営に至るまで、多大なるご尽力を賜りました高野先生ならびにBERC主催の皆さまに、改めて深く感謝申し上げます。あわせて、事前準備、当日同じ緊張感のもとで難度の高いシナリオに真摯に向き合い、率直かつ実践的な議論を共にしてくださった生命保険会社の皆さまに心より御礼申し上げます。

委託先会社社長役

株式会社TBSホールディングス 法務・コンプライアンス統括局 グループリスクマネジメント室 山本 一雄 氏


 「なんか面白そうだな」

 BERCの案内を見て抱いたそんな軽い気持ちは、本番を終えた今、心地よい充実感と、それ以上の不甲斐なさ、そして何より「この研修に出会えて本当に良かった」という確信に変わっています。

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 当初は「謝罪会見」というテーマへの興味から参加しましたが、「社長役が一番面白いよ」という髙野先生の言葉に背中を押され、チームの仲間から社長役という大役を託されたことで、景色が一変しました。普段はテレビ局に身を置き、記者会見を「報じる側」の視点で見てきた私にとって、当事者としてクライシスに向き合う経験は想像を絶するものでした。

 優秀な委託先会社チームの部下たちが揃えてくれた完璧な資料を手に、不眠気味で臨んだ当日。しかし、次々と投入される過酷なインシデントに翻弄され、親会社社長や委託元の生命保険会社社長の圧倒的な存在感に必死に食らいつくだけで精一杯でした。

 極めつけは第4フェーズで行われた記者会見です。席に着いた瞬間、質問を控えるためのペンを待機席に置き忘れたことに気づきました。武器を持たずに戦場に立ったような動揺と、記者席からの鋭い追及。頭が真っ白になる中で、己の未熟さをこれほどまでに突きつけられた経験はありません。

 この究極の疑似体験から得た教訓は二点です。第一に、「準備に終わりはない」ということ。やり尽くしたと思っても、現場の混乱を乗り越えるにはその数倍の対策が必要です。第二に、「事象の本質を見失わない」こと。変化し続ける情報に流されず、何を守るべきかという本質を射抜く視座こそが、経営判断の生命線であることを学びました。

 最後に、髙野先生、岡野さんをはじめBERCの皆さま、研修に参加された皆さま、そして一丸となって戦い抜いた委託先会社チームの「戦友」たちに深く感謝いたします。リスクマネジメントという孤独な領域で、社外にこれほど強固な絆を築けたことは、私にとって何よりの財産です。この学びを日々の業務に真摯に還元してまいる所存です。

 まずは近々開催予定の「第5フェーズ(打ち上げ)」で戦友たちと再会し、今回の教訓を改めて語り合えることを楽しみにしています!
生命保険会社の皆さまに心より御礼申し上げます。

委託先持株会社社長役

パナソニックホールディングス株式会社 エンタープライズリスクマネジメント室 岡嶋 望 氏


 身をもって経験しなければ実感を伴わないところもあるかもしれませんが、まさに「経営者として『気概』をもって取り組む」ことの重さこそがこのトレーニングの醍醐味だと感じています(研究会では、この言葉を事前に髙野先生からいただいてから、トレーニングに臨むことになります)。当然ですが、「簡単に会社を潰すことはできず、また、経営者は企業や株主から莫大な損害賠償請求を請求されることもある」のです。

 参加者はコンプライアンスやリスクマネジメントといった経営倫理に関連する業務に従事する実務担当者が多いため、企業不祥事に対する感度は人一倍高い方ばかりです。一方で、確かなことがわからず、さらには次から次へと情報が錯綜する中では、何が起きて、自社がそれにどう加担しているのか、そして最終的にどのような形で責任を負うべきなのかを見極めることは容易なことではありません。さらには、限られた時間の中で「正しい」であろう対応を考え、判断を下すこと―――そう、経営者として「腹をくくる」ことの追体験こそが、その経営者を支える立場である我々の日常の仕事を、ドラスティックに向上させる可能性を秘めているのではないかと思います。

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 個人的には今年でトレーニングへの参加は2回目で、持株会社(委託先親会社)の「社長」という立場を立候補し、拝命しました。それは、社長の立場として組織の中や社会からの様々な情報に揉まれ、意思決定を求められる中で、どのような景色が見えるだろうか?ということが非常に興味深かったということが理由です。大きな声では言えませんが、その動機には、これまで見てきた組織の経営層に対するちょっとした不満もありやなしや、というところです。(なぜもっと上手く従業員、お客様、その他のステークホルダーと対峙し、説明責任を果たそうとしないのか?)

 そして臨んだ本番。自身が為せた、と思うことは一つ。それは自社「従業員」というもっとも大事な仲間に対し、自社を取り巻く不穏な状況の中で、一緒に戦ってほしいというメッセージをいち早く出すという決断ができたこと。為せなかったことは数えきれないですが、やはり「自社(グループ)」中心で物事を考えるプロセスによって、記者会見の陣容などにあたりお客様が受けるであろう印象が意識できなかったことでしょうか。言葉選び、視線、会見の運び方、一つひとつが「シグナル」になるということは改めて非常に大きな学びとなりました。

 悲しいかな、今年もまた多くの企業不祥事を目にすることになるでしょう(そしてあってほしくはないですが、それは自社かもしれない)。一方で、それらをただ対岸の火事とするのではなく、その背景にはどのような方針のもと、限られた情報の中で意思決定をしているのだろうかといったことに思いを馳せ、自分であればどう立ち回れるかということを俯瞰できるかもしれません。自身が「経営層の立場であれば」という仮定だけで、「仕事」が(自社が営利企業として存続していくために、の観点を忘れることなく)正しい意思決定に結びつけていくための「為事」へと変わっていく。

 もちろん、経営層にも(羞恥心なんてものはさっさと捨てて)チャレンジしてもらいたいですね。来年も楽しみにしております。

記者役

エーザイ株式会社 コンプライアンス推進部 室井 照代 氏


 今回のクライシス・シミュレーション・トレーニングでは報道社の記者として、参画させていただきました。委託先会社、委託先持株会社、生命保険会社、それぞれ皆様の立場で真剣に議論され、限られた時間、緊急速報に全集中しながらのご様子に、記者側も真剣に緊張感を持って臨めました。全て皆様のお陰です。

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 今回のトレーニング内容はどの企業にもリスクがあるだけに、もし自分が漏洩された側であったらのスタンスと、記者として企業側に伝えるべきことは何か、企業側だったらマスコミに伝えたいことは何か、何のために記者会見をするのかをずっと考えていました。
大袈裟に思われていいから最悪シナリオを質問に考え、投げかけることも必要かと思いチャレンジしました。

 会見対応の進め方について、当たり前のように3社が会見されると思いこんでおりました。一方で、記者として席についてみると、見える景色、確認したい対象者がフォーカスされることも知り、先生方のご教示に腹落ちしました。

 企業不祥事で起きた被害を拡大させない、顧客も従業員も株主も社会も守る、その為に危機発生時の判断力と初動対応の重要性を改めて実感しました。特に、平常時からの不祥事案の自分事化、議論、情報共有、トレーニング、役割分担の明確化、そして企業の真摯な姿勢が不可欠であることも学びました。

 仕事のみならず、人生の中でこのような実践形式のトレーニングを体験できることは極めて貴重で有意義な機会です。

 本研修の企画・緻密な設定、レクチャー等、多大なるご尽力を賜りました高野先生ならびにBERC主催の皆さまに、深く感謝申し上げます。

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