そもそも「監査」とはどうゆうことなのでしょうか。英語では「 Audit 」と表記されます。そしてこの言葉は、その昔英国において、農場の領主が執事に命じて所有する羊の数を確認し、報告を命じたことが、そのはじまりだと聞いています。
監査と似たような言葉に、「検査」、「監視」、「監督」、「統制」などいろいろありますが、内部監査等に用いられる「監査」という言葉は、上記とその意味合いが大きく異なることに留意したいものです。たとえば「検査」は、金融検査などによく用いられますが、それは、ある基準に照らして調べ、検めることを意味します。「監視」は、何か悪事や異変が起きないよう見張ることであり、「監督」は、内外の関係者が経営者のなしたもろもろの成果を評価することです。
「監査」は当初、会計用語として「検査」の意味に近い企業や組織の会計・財務処理が、会計諸規則に照らして適正に処理されているかどうかを検証する意味で用いられました。しかし近年では、経営者の執行活動に直接介入しないで、組織体から独立した立場で経営者の行動や成果を調査し、評価することを意味するようになったのです。
さらにその監査を担う人には、周知のように、内部監査人、監査役(監査委員会)、それに会計監査人の三者が挙げられます。彼らが行うそれぞれの監査を、総称して三様監査といい、これらのミッション等を下記のようにとりまとめました。
<監査の諸相:三様監査、それぞれの役割>
<監査の諸相:三様監査、それぞれの役割>
(出典:拙著『企業経営と倫理監査』同文館から)
このうち本講では、三様監査の中でも「内部監査」に焦点を合わせて、その考え方・定義や業務内容などを考えていきます。
内部監査の業務は一言でいえば、経営トップからその業務を直接委嘱され、「経営目標が組織体の末端にまで浸透し、目標に沿った施策が効果的に実施されているかどうかを検討し、評価し、その改善を図ることによって、目標の効果的達成を促進する」ことであるとされています。(日本内部監査協会『内部監査基準』より)
その監査の態様から、日頃から業務監査、会計監査、内部統制監査そしてさらには、トップ特命事項の監査、その他特定のテーマに絞り込んだテーマ監査(コンプライアンス監査)などがあります。
さて、かっての内部監査部門の監査は、被監査部門側からみると、態度が横柄で、問題の発見に終始するという「虎の威を借りた監査姿勢」であったため、彼らからは「招かざる客」と揶揄されていました。これでは経営に資する真の内部監査は望みえません。
しかし、最近の監査スタンスは、上記とは全くその趣を異にし、経営全体を睨んだ経営サポート監査、被監査部門におけるリスクの把握と対応を示唆するなど、その部門のリスク管理と業務改善に資する監査が行われるようになってきています。すなわち、「コンサルタント型監査」であり、さらには、監査の内容や結果についてトップに保証を与える「アシュアランス型監査」へと進化してきているのです。
近年の内部監査の有効性と信頼性の向上に伴い、内部監査部門の員数は各社とも増加の傾向にありますが、それでも決して十分とはいえません。内部監査人の不足を補うことや、さらに組織の自己規律や意識を向上させる意図から、自己申告型業務評価(CSA:自部門で監査を実行する)なる仕組みを活用する企業が増えてきています。ただし、これらの準備やシナリオ設計、結果のとりまとめなどは、むろん内部監査部門の仕事であることに違いありません。
これからの内部監査部門の課題の一つは、経営者の期待に応えるため、部員の監査教育の徹底や各種資格の取得によって、人材の質を一段と高めることだと思います。
さらに留意すべき点は、国際会計基準( IFRS )の適用とそれに対応する内部監査のありようです。日本では、 2010 年 3 月期から IFRS の任意適用が認められ、 2012 年をめどに IFRS の全上場企業への段階的な強制適用が予定されているからです。何がどう変わり、監査をどのように進めたらいいのでしょうか。
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