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2011-02-26 |  アドバイザーコラム

第3回 イシューマイオピアにご用心!― なぜ,雪印は2回目の不祥事を防げなかったのか??

 雪印乳業(現 雪印メグミルク)が関わった2つの不祥事,「雪印乳業集団食中毒事件」「雪印食品牛肉偽装事件」は様々な観点から分析されている.多くの場合,「2つの不祥事を引き起こした」ことに注目し,食中毒事件後,雪印が何もしていなかったかのような主張がなされる.その上で,雪印が短期間に2つの不祥事を引き起こした原因として,企業体質が問題視されることが多い.

だが,食中毒事件と子会社による牛肉偽装事件の間には1年半の期間があり,その間に雪印は何らかの対応策を講じていると考える方が自然であろう.実際,食中毒事件後,雪印は品質管理と危機管理という2つのソーシャルイシュー(社会的課題事項)に特定の部門が迅速に対応していた.つまり,食中毒事件後,雪印は何もしていなかったのではなく,食中毒の再発防止と危機管理能力の向上に奔走していたのである.

 しかし,なぜ,雪印では広い意味での企業倫理の制度化・浸透が進まなかったのだろうか? それは,雪印が,食中毒事件後,「イシューマイオピア」に陥ってしまったことによる(図表3).

マイオピア(myopia)とは,「近視眼的なこと,洞察力の欠如」を意味し,「物事や状況を狭く捉えてしまう現象」をいう.ここでは,イシューマイオピアを「企業が特定のソーシャルイシューのみを認識してしまう現象」と定義づけることにしよう.この現象に陥ると,結果として,企業は他のソーシャルイシューに注意を払わなくなる.雪印のケースでいえば,食中毒の再発防止と危機管理能力の向上以外に目が向かなくなったということになる.

企業がイシューマイオピアに陥る要因は3つある.第1は,ソーシャルイシュー間の相互関連性が低い点である.例えば,環境汚染を引き起こした企業が,不祥事発生後にセクハラやパワハラの対策に目を向けるのは難しいだろう.第2は,企業が組織体だという点である.不祥事発生後,企業は何が原因であり,どの部門が対応に責任を持つのかを明確にする.しかし,こうした原因・責任分析活動により,特定の部門のみにソーシャルイシューへの対応責任が課されることになり,他部門は,「自部門にはイシューはない」という意識を持つようになる.組織の中に,「当事者?他人事意識」が醸成されるのである.第3の要因は,どのイシューを意識するかが過去の経験や現在の状況に影響を受ける点である.以前,素材メーカーでコンプライアンスについてヒアリングしたところ,「ゴルフをやっていないから大丈夫です」との回答を得た.「コンプライアンス違反=カルテル」という図式が成り立っていたのである.このような図式が出来上がっていれば,他のソーシャルイシューに目を向けるはずがない.

どの企業もイシューマイオピアに陥る可能性があるが,不祥事を引き起こした直後の企業は,とりわけイシューマイオピアに陥る可能性が高い.したがって,経営者・管理者は,現場がイシューマイオピアに陥ることを想定して,従業員に注意を促す必要がある.また,いたずらに迅速な対応を強調しないことである.現場は,ソーシャルイシューを馴染みのあるイシューとして解釈し,馴染みのある対処方法で迅速に対応する可能性がある.そして,組織内部での温度差に注意することである.不祥事を引き起こした企業の内部では,「当事者?他人事意識」の構造が生まれることが多い.この現象を意識することが重要となる.

 なお,イシューマイオピアの詳細については,拙著『CSRのマネジメント ?イシューマイオピアに陥る企業?』白桃書房(11月1日 刊行予定)をご覧いただきたい.

図表3 ソーシャルイシューマイオピアの概念図
ソーシャルイシューマイオピアの概念図

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