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2013-02-26 |  アドバイザーコラム

第2回 「逆境7策」はこうして生まれた

 前回は、すべての解はビジネスの現場からとのサブタイトルで、発想を変えることの大切さや、現場に足を踏み込むことで生まれる発想について述べました。

 今回は、脱デフレの時代を迎えて、これまでの逆境から甦るための経営について、なぜ7策が大切なのか、そのあたりを考えてみたいと思います。

艱難辛苦、「逆境」の弊害を分析

 まず、何事においてもそうですが、企業経営においては現状を分析することが出発点となります。脱デフレで再出発の時代を迎えて、企業活動にドライブをかけるには、同じようにまず「逆境」で苦しんだ時代の弊害を素直に認めることです(といっても、今でもその弊害はまだ残っているとも聞きます・・・)。

 その上で、どのように企業を経営していくか、また現場の社員はそのために何をどのように行動していくべきかを考えることが大切です。

 そこで、これまでの筆者の経験や企業の経営者、ビジネスマンから聞いた言葉をもとに、企業がおかれていた艱難辛苦の時代の「逆境」の弊害を分析してみました。

1.業績が悪化し、リストラ、派遣切りはもちろんのこと、正社員の給料、ボーナスのカットなどで、働く社員のモラールが低下していた。

2.社内では、「?教育・訓練(国内外を問わず)、?広告費、?交際費」の3Kに加えて?交通費(会議費含む)、?研究・開発費にまで拡大し、5Kを極限まで経費削減する至上命令で、社員が手も足も出ない「だるまさん症候群」になっていた。

3.リーダーは、目先の売上・利益の確保に終われ、現場を見る余裕がない。現場・現実・現物の「三現主義」など程遠く、当然、将来を考えるゆとりもなかった。

4.現場は人減らしもあって、今いる社員にしわ寄せがあつまり、目先の仕事をこなすのに精一杯で、先が見えなくなっていた。

5.社内では人員削減をカバーすることもあってIT(情報技術)化がすすみ、パソコンに語りかける「独り言(ひとりごと)症候群」の社員が増えた。メンタルヘルスへの対応が大きな問題となっていた。

6.「きつい(仕事が)、帰れない(家に)、給料ダウン」の新しい3Kが登場し、社内は閉塞状況に陥り、元気がなくなった。

7.このような状況だから、新しいことにチャレンジする勇気もなく、前例主義、事なかれ主義の大企業病が蔓延していた。

改革すべき"ツボ"が見えてきた

 「逆境」を分析すればザッとまあこんなところでしょうか(そうだ、そうだと賛同の声が聞こえてくるような気がします)。すべて過去のことのように書きましたが、現実はこのいくつかは残されたままという話も耳にしました。

 本書を執筆したきっかけは、このような「逆境」から早く脱出したいという思いから始まりました。

 会社が逆境で、苦しんでいるときは、発想を変えて会社をゼロベースで眺めると、改革すべきことがおのずと明らかになってきます。

 もう一度、前回のA社のケースで考えてみましょう。

 いの一番に「改革委員会」を立ち上げたのは、社員たちに自由に発言させることが目的でした。社長に押さえつけられて言いたいことをいえない「風通しが悪い組織」を、まずは壊そうと思ったのです。

 組織を変えていこうとする場合、「壊すことから始める」ことの大切さはいくら強調してもしすぎることではありません。深夜の会議をまず壊しました。昼間の会議で、すすめ方も皆が発言できるような意見交換の場に変えたのです。

 A社の社長は経費を使わないことで有名でした。しかし、若手社員たちに内実を聞くと、仕事上に必要な経費でさえ認めない単なる「ケチ」でしかないことがわかりました。必要な販促経費とわかっていても、「カネは使わないにこしたことはない」と決済しなかったそうです。

 そこにあるのは「目先の利益」だけを追求する姿勢です。必要な分野には「カネを惜しまない」ことこそ伸びる会社の必須条件です。

 そんな会社ですから、当然、取引先やお客様からも敬遠されるようになり、顧客満足度は低くなる一方でした。社員たちも上司の顔色ばかりみながら仕事をして、まるで「ヒラメ人間」。のびのび働ける環境などとんでもない...などなど、改革するべきツボを挙げていくとちょうど七つになりました。

ABC体験をもとに「7策」を考える

 私は中小企業診断士として、また全日本能率連盟のマスターマネジメントコンサルタントとしても、多くの企業でコンサルティング活動を行ってきました。

 そして、私は自らの活動を「ABC経験」と名づけています。すなわち、経営学者としての活動を表すアカデミーの「A」、民間企業(資生堂)で29年にわたり実際のビジネスを体験したというビジネスの「B」、実際の企業のコンサルティング活動に携わってきたコンサルティングの「C」です。そうした経験を踏まえて七つのツボを整理していくことで、「会社が甦る七つの法則」が完成しました。

 法則その一 壊すことから始める

 法則その二 カネを惜しむな

 法則その三 顧客満足を最優先

 法則その四 逆境のときこそ「威張らない上司」

 法則その五 社員がのびのび働ける企業ほど成長する

 法則その六 「らしさ」で団結

 法則その七 社会から離れない

脱デフレの経営を探る

 冒頭で触れたように、これまで世界同時不況に陥って業績が急降下したこともあり、アベノミクスでこれからだ、といっても「焦り」と「不安」ばかりが大きくなって、何をやっていいのかわからず途方にくれている企業も少なくないと思います。

 しかし、脱デフレのいまこそ基本を大切にしなければなりません。この七つの法則は、分解していくと企業活動の基本姿勢を示したものばかりです。何事も同じですが、基本を地道に実践していくことの延長線上にこそ未来は開けてきます。

 七つの法則すべてを企業活動の中で実践できたなら、あなたの会社は逆境から抜け出せるだけでなく、間違いなく「エクセレントカンパニー」への道を歩み始めていることでしょう。

 なお、本書では「七つの法則」をさまざまな企業のエピソードを紹介しながら解説していきますが、とりわけトヨタ自動車、パナソニック、資生堂の3社が数多く出てきます。これは、3社がそれぞれ特徴を持った日本を代表する企業だからです。

 トヨタは日本、いや世界一の現場力を持つ企業です。

産業技術記念館

 トヨタ自動車の歴史を語る「産業技術記念館」

 筆者撮影

 パナソニックは、今も苦しみのさなかにはありますが、かって「逆境」を克服して奇跡的なV字回復を成し遂げたお手本です。

パナソニック株式会社

 「松下電器からパナソニックへ社名を変更し、新しい時代を迎えたパナソニック」

 写真提供:コーポレート・コミュニケーション本部 広報グループ

 そして私の古巣である資生堂は、ブランド力、文化の発信では類を見ない優良企業です。良い企業の良い事例を学ぶ――これも学習の基本です。

資生堂

 ブランドの価値を伝える資生堂の広告(1959年、ドルックス化粧品)

 写真提供:資生堂広報部

 ともあれ、この七つの法則を実践してもらうことで、多くの企業と、そこに働く人たちが、失われた20年と言われるデフレ経済からの脱出に成功することを期待しています。  では、次回以降、具体的に、法則その一から見ていきましょう。

 参考文献
 水尾順一(2009)「逆境経営 7つの法則」(朝日新書:700円)

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