「一監査役から見た企業ガバナンス改革とコンプライアンス~監査役活動の現場から~」安原 裕文氏が講演
経営倫理実践研究センターでは、毎年春と秋の2回、会員企業の経営倫理担当役員(BEO;Business Ethics Officer)を招き昼食懇話会を行っているが、第29回BEO昼食懇話会は2019年11月20日、パナソニック前監査役で現在日本監査役協会顧問(前副会長)である安原裕文様を講師にお迎えして、東京都港区の国際文化会館で開催された。
はじめに、経営倫理実践研究センター上野幹夫理事長(中外製薬株式会社代表取締役副会長)から開会のあいさつがあった。「この秋はいくつもの台風で思わぬ被害が発生した。被害にあわれた企業の皆様にはお見舞い申し上げるとともに一日も早い復旧を祈っている。今日はパナソニック前監査役の安原様からガバナンスとコンプライアンスについてのお話があるが、安原様は海外現地法人のCFOや国内関係会社のトップも経験されていて、幅広いお話をお聞きできるものと私も楽しみにしている。」
安原氏は講演の冒頭で、「講演タイトルにある『一』は記号ではなく、私という一人の監査役という意味で、企業ガバナンス改革が声高に言われてきた2015年という正にその年に監査役になったわけで、実務家としてやってきた経験から昨今のいろいろな動きに対する思いを私見として披露させていただく。」と述べた。
<Ⅰ 直近の企業ガバナンス改革 ねらいと特徴>
安原氏はまず、戦後わが国のガバナンス改革がどうであったかを述べるが、その主要テーマはコンプライアンスと監査役制度の強化だったという。一貫して監査役制度にハイライトがあてられてきた時期であり、例えば日米構造協議では社外監査役を半数以上にすることなどが議論されたとのこと。それに対して直近のガバナンス改革はどうかと安原氏の説明が続く。
安原氏は、ガバナンスの主目的は「資本の成長促進」すなわち企業価値を高めることとされているという。その手段としてそれまでの監査役制度から取締役会に焦点があてられ、取締役会改革が叫ばれてきた。すなわち社外取締役中心に監督機能を強化するということ。また、取締役会には攻めと守りの両立が求められ、攻めは取締役が、守りは監査役が担うことになっているとのこと。更には、従来は無限定意見を書けば監査役報告1ページで会社の公正性を投資家等に理解してもらっていたが、ここでも監査役報告の重要性はトーンダウンして、種々の開示が要求されるようになったということ、と歯切れのよい説明が続く。
<Ⅱ ガバナンスコードに見るコンプライアンス>
次にコーポレートガバナンスコードにおける経営とリスクとの関係をどう理解するかに移る。コンプライアンスをどう定義しているかというと、経営における広義のリスクのひとつとしていると安原氏はいう。また、攻め(リスクテイク)を行うための守り(リスク管理)のひとつがコンプライアンスという考え方、あくまで目的はガバナンスによって会社を攻めさせる(儲けさせる)のだから、そのマイナス要因であるリスクの一つすなわちコンプライアンスについてはしっかり管理する体制を敷きなさいということだ、と安原氏は続ける。また取締役会はリスクを管理する「体制」を整備するということについては、取締役会は監督義務の方に軸が移っていて、大きな視点でやりなさい、細々したことは執行側に任せて大きな防波堤を作ってそれに専念してくださいということを意味しているとのこと。取締役会は個別の業務執行に係るコンプライアンスの審査に終始すべきでないと書いてあり、コンプライアンスをリスクとして見たときに管理体制が整備されていれば、代表訴訟等が行われても意思決定過程の合理性が担保できるという意味だと思う、と安原氏は述べた。
<Ⅲ 一監査役から見たガバナンス改革>
「自分の4年の監査役の経験から話すが以下は私見として聞いてほしい。」と安原氏は話をすすめる。