BERC:一般社団法人 経営倫理実践研究センター

経営倫理シンポジウム・2014 2014/11/19

グローバルコンプライアンスをテーマに企業の取組を紹介

  経営倫理実践研究センター(BERC)主催、日本経済団体連合会、日本経営倫理士協会後援の、経営倫理シンポジウム・2014「日本企業のグローバルコンプライアンスに関する取組」が11月19日開催された。場所は東京都港区の国際文化会館岩崎小彌太記念ホール。

はじめにBERC理事長である矢野薫NEC会長より挨拶。「各企業がグローバルに事業展開している中、すべてを日本本社からコントロールすることは難しい。ただし危機管理、コンプライアンスという点は極めて重要で、全く現地任せというわけにもいかない。このシンポジウムからヒントを得てほしい。」と述べた。

 基調講演は大江橋法律事務所代表社員の国谷史朗氏。「グローバルコンプライアンス経営とコーポレートガバナンス」をテーマに、会社・事業を取り巻く環境の変化、決裁をする場合の留意点、コンプライアンス経営を支える制度や仕組みなど幅広く概説した。法的リスクの具体例として、粉飾決算や架空取引は本業とは別の新規事業を立ち上げるときに起こりやすい、本社の役職者が名前だけ海外法人の非常勤取締役を兼務するのは避けるべき等の言及があった。また、コンプライアンス担当者・部門の役割、コンプライアンス・危機管理の視点について話があり、特にクレームは会社発展の基礎(製品、サービス、開発の重要なヒント)であり、クレーム対応部門を優秀な人材に経験させるべきとのコメントがあった。最後に外国公務員に対する贈賄防止規制とファシリテーションペイメント(政府業務円滑化目的の支払)について各国法制毎に説明があった。その中で中国の商業賄賂に関連して、同事務所の林依利子弁護士からグラクソ・スミス・クライン事件について解説があった。

 その後、BERC会員企業3社から自社の取組について発表があった。

 トップバッターはイオンの松本英一氏。テーマは「海外イオンピープルへのイオンの価値観醸成」。イオンが大切にする価値観をいかにグループに働くイオンピープルと共有化していくかということに時間をかけて取り組んでいる。そのために行動規範を12か国の言語にして伝えているとのこと。海外各社における行動規範推進体制も国内同様にPDCA(Plan・Do・Check・Action;仕事を効率よく進める手法の一つ)を回している。特にDの部分で最低年1回は全従業員が行動規範に触れる機会として研修を行っている。一回きりでなく継続が大事であると強調した。また絵本を使った理念教育は特徴的取組である。例として「ありがとうの約束」という絵本の内容がイオンの価値観に極めて近いとして、著者の許しを得て各国語にして展開しているという紹介があった。"ありがとう"があふれるイオンへ、そして従業員一人一人が「あなたがイオンです」ということを理解するよう進めていると締めくくった。

 次はキッコーマンの根岸伸明氏。まず事業の紹介があったが、同社は売上の50%以上が海外で北米がその8割、営業利益については7割以上が海外、特に北米市場であげているとのこと。食品会社のコンプライアンスをモノのコンプライアンスとヒトのコンプライアンスの二つに分けて説明があった。特に後者については二つの側面があり、まず各社のトップがどう考え各社がどのような体制にあるかということをとらえていくこと、次に従業員がどう考えているかを知っていくことが必要だと述べた。海外各社がどのような体制にあるかという調査では、国連グローバル・コンパクト・セルフアセスメントツールを展開している、また企業の社会的責任調査を今年度から海外グループ会社にも広げて実施しているとの説明があった。特徴的なものは社会的責任調査である。この調査票はスタッフ部門が確認したいことをとりまとめ、107項目の質問事項からなる。現地側からすると1回目は大変だが、一度ベースができれば後はスムーズにいくと説得して対応させているとのこと。行動規範については事業所展開ごと現地語版を用意している。今後は現場レベルのより実効性あるコンプライアンス・プログラムの提案・実施とグローバル法務人材の育成が課題だとして説明を終えた。

 最後はパナソニックの永田真紀氏。前段部分はグローバルコンプライアンス推進のいわば平時の話。行動規範を23言語で策定しグローバル27万人で共有していることのみならず、それを解説したコンプライアンスガイドブック、もともと日本人出向者教育用に使用していた各国別「法務ガイド」を現地社員教育にも使用するなど工夫がうかがわれる。年に一度行われるグローバル法務会議で本社・各地域の方針・課題を共有することを進めているなど説明があった。

 次に有事の話、国際カルテルの話に移った。同社では過去の事件もあり、2008年10月に「競合他社との活動に関する規程」を導入、社員の意識も大きく変わったが、さらに3つの誤った認識、すなわち?カルテルは会社の利益になる?カルテルは見つからない?カルテルをしても懲戒対象にならないを ― 正すため2011年のコンプライアンス委員会での討議を経て、カルテル行為に関与させないようトップから徐々に現場レベルまで決別を誓い合うこと、また逆に現場レベルから上位に疑わしい行為について正直に語ってもらい徹底調査を行うこと、また人事面の施策強化、カルテル監査の実施など徹底的な行動につき細かな説明があった。最後に経営幹部に要請することとして、永田氏は?カルテル決別の思いを発信?気になる分野は再度洗い直し?疑わしい行為は直ぐに止めさせる?疑いを招くような言動をやめる ― の4点を挙げ、これが「事業」と「人」、「信頼」を守ると締めくくった。

 休憩後、参加者からの質問に対するディスカッションが国谷弁護士をファシリテータとして行われ、BERC河口専務理事の閉会の挨拶で終了。

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