BERC:一般社団法人 経営倫理実践研究センター

経営倫理シンポジウム・2018 2018/11/21

「再びグローバル・コンプライアンスを考える」

 経営倫理実践研究センター(BERC)主催、日本経済団体連合会、日本経営倫理士協会後援の、経営倫理シンポジウム・2018「再びグローバル・コンプライアンスを考える」が11月21日(水)に開催された。場所は東京都港区の国際文化会館岩崎小彌太記念ホール。100名ほどの参加があった。


 開会のあいさつが上野幹夫理事長(中外製薬株式会社代表取締役副会長)からあった。「もともとこの経営倫理シンポジウムは1998年に国際シンポジウムとしてスタートした経緯がある。コンプライアンスに関し先進的と言われるBERC会員企業もグローバル・コンプライアンスが課題というところが多いのではないか。今日の講演の内容を各社に持ち帰り、実務に生かしてほしい。」






 最初の講演は「グローバル・コンプライアンスの再構築」でTMI総合法律事務所の衛藤佳樹弁護士と戸田謙太郎弁護士が受け持った。講演内容は三部からなる。



第一部 海外子会社不祥事の最新事例と留意すべき法規制

 戸田氏が担当。海外子会社の管理の重要性を、不祥事案を例示しながら強調。まずは贈収賄規制であるが、日本の不正競争防止法(外国公務員贈賄罪)、米国FCPAに関し詳しい説明がなされた。また日本版司法取引制度についても、適用第一号となった三菱日立パワーシステムズの事案に絡め、説明があった。次に独占禁止法・競争法。自動車部品カルテルの事案についての説明があり、また競争法の域外適用について注意事項が述べられ、事案が発生した際の証拠保全の重要性についても言及があった。更にサプライチェーンまで含めた人権問題のリスクに触れた。サイバーセキュリティについては衛藤氏から説明。特にサイバー攻撃による被害は企業価値に直結する問題だという認識を持って対策を進めるべきとのコメントがあり具体的な対策の説明があった。また引き続き海外反社の排除の必要性について話があり、海外反社に該当するかどうかのチェックツールにも言及があった。


第二部 不祥事の未然防止・探知の方法

 戸田氏が担当。最初に親会社が海外の子会社まで含めたグループとしてのコンプライアンス体制の必要性について語り、不祥事を起こしてもモルガン・スタンレーに対してはDOJ、SECによる法的措置が行われなかった事例について説明があった。また海外子会社には人的・物的リソース等に限界がある中、何をどこまでやれば良いかという課題があるが、これに対し戸田氏は「世の中の水準」に適合しているかどうかが大事だと説く。以下世の中の水準について語っていく。まずは不祥事の未然防止の方法だが、これをやればよいというテンプレートのようなものはなく、それぞれの会社がリスクの評価をしたうえで優先順位に応じた体制を構築すべきと述べる。まず大事なことはコンプライアンスの基本方針だと戸田氏は語る。経営トップの基本姿勢を明確にすること、また基本方針策定後も適宜アップデートしていくことが重要ということである。続けて贈賄防止規程、競争法違反行為防止のための規程作りの留意点、また文書の作成、文書の管理のポイントの説明があった。更に浸透のための社内研修のありかた、また規程に関わる施策が実行されているかのモニタリングの重要性についても言及した。コンプライアンスの意識調査については衛藤氏から、その行い方や効用について細かく説明があった。

 防止・早期探知の方法に移る。説明が戸田氏に代わる。まずグローバル内部通報制度について検討要素(窓口をどこに置くか、対象情報を限定するのか、言語対応はどうするか等)について細かく説明があった。導入にあたってはEUのGDPRなど法的検討も必要だとコメントした。またCRA(コンプライアンス・リスク・アセスメント)については衛藤氏が担当、特にDOJのEvaluation of Corporate Compliance Programsについて説明があった。海外子会社でのCRAの実施方法についてもサンプルCRAのシートを用い説明があった。更にThird Party Due Diligence(第三者へのDD)について詳細な説明があった。



第三部 不祥事発生時の対応

 衛藤氏からグローバル・コンプライアンス体制の考え方につき説明があった。海外を大きくいくつかのブロックに分ける有効性が示され、またグローバル・コンプライアンス会議の必要性などについても述べた。またレポートラインについては、情報は下から上にあがってくるものだが、上に立つ人間が意識してレポートラインをコントロールすることが必要だとのこと。最後にインシデントプランであるが、まず上がってきた情報を有事と判断するかしないか、初動が大事だということである。誰がどうは判断するか、どこの部門がどう責任を持つかをあらかじめ決めておくことが必要とのこと。レポートラインを海外子会社にあてはめた場合、一定のインシデントは機械的にしかるべき部署にあがってくる仕組みにしておくことが良いということであり、インシデントプランを海外子会社にあてはめた場合には、信頼できる外部専門家の意見にある程度依拠して対応を決めていくことが必要なので、予め然るべき専門家を準備しておくことが必要だということだ。



休憩を挟んで後半の講演に移った。


 後半の講演は「現地日系企業におけるコンプライアンス体制の新展開~中国の行政機関との紛争及び対応策を踏まえて~」、金杜法律事務所パートナー弁護士である劉新宇先生が担当。劉氏は、「戸田先生と衛藤先生の前半部分はグローバル・コンプライアンス体制全般についてのお話、自分のパートは中国に特化して独禁法、商業賄賂ならびに税関法違反の三つの分野の事例を中心にお話する。」と前置きして、説明に入った。

 まず、劉氏は最近の中国の状況を四つ挙げた。中国は今年23年ぶりに不正競争防止法を大幅に修正した。それに伴い商業賄賂規制についてさらに強化したことがひとつ。二つ目は、中国では久しくコンプライアンスという言葉を聞かなかったが、最近は業法への違反を受けてコンプライアンスの体制を作るというようになってきたこと。三つ目、コンプライアンスと言われて特に営業部門はいろいろな行為をやってはダメと言われうんざりしていたところが、「営業利益最大化とコンプライアンス体制」というようなセミナーを開催するような社会的潮流になってきたかなと。そして四つ目、中国における日系企業の現地化が進んでいて、現地化のメリットが多くある一方、中国人トップ等の不祥事もしばしば出てきているということ。

 劉氏は、日系企業にとり現在の中国の法的リスクは、間違いなく一番目は商業賄賂、二番目は入札方法を中心とする不正競争防止法違反関連、三番目は税関規制違反。この三つが最近の日本企業が中国に進出する際に最も考慮しなくてはならないことだと強調した。またこの三つのリスクは、行政機関との紛争に繋がるので、行政機関といかにバランスの取れた関係を作るかが肝要になっているとのことである。

<対中投資の最新動向>

 劉氏によれば、2年前から中国の外資管理体制が規制緩和され、ネガティブリスト非該当の投資プロジェクトは、それまでの認可制から多くが届出制に変更されたとのこと。言い換えればそれまでは政府が何でも監督・チェックをしてくれていたものが、各企業が自らしっかりしなくてはならないことになってきているとのこと。また、2012年の反日デモ以来、対中投資の再編・撤退の動きも若干増えている。加えてここ20数年で人件費は数倍以上に上昇したこともある。また米中貿易戦争の影響もここにきて出始めている。

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