「AIと経営倫理」
経営倫理実践研究センター(BERC)主催、日本経済団体連合会、日本経営倫理士協会後援の、経営倫理シンポジウム・2019「AIと経営倫理」が11月20日(水)に開催された。場所は東京都港区の国際文化会館岩崎小彌太記念ホール。80名ほどの参加があった。
開会の挨拶が上野幹夫理事長(中外製薬株式会社代表取締役副会長)からあった。「AIなしでデジタルトランスフォーメーションの将来像は描けないと言われている。従いAIを開発する企業やAIを利用する企業のみならずAIの影響を受け、そのリスクとは無縁ではない。今日のシンポジウムの内容が、BERC会員企業にとって有益な情報や刺激となることを期待している」
最初の講演は、「AIビジネスと法・倫理的リスクマネジメント」と題して、渥美坂井法律事務所・外国法共同事業パートナー弁護士である三部裕幸先生にお願いした。
第1章では、リクナビ問題を分析、AIビジネスのリスクの特殊性について述べた。
本章では、本案件がどのような課題を含み、その中で監督官庁からどのような指摘を受けたかについて分析され、また、ステークホルダーが広範囲にわたっているため、リスクも広範囲にわたることについて解説された。
個人情報保護委員会からの勧告は、就活生の同意を取っていなかったことだけでなく安全管理措置を講じる義務の違反を問題とするものであり、ガバナンス体制にまで踏み込まれたのが特徴。さらに、同委員会だけではなく、厚労省・労働局が労働者の重要な情報に対する管理義務違反(職業安定法)を指摘していること、公正取引委員会が優越的地位の濫用(独占禁止法)を問題とする可能性があることなども解説され、単に個人情報保護法上の同意の問題だけにとどまらないことが説明された。
これらに加えて、憲法上認められた権利の侵害や、民法上の不法行為が成立する(損害賠償義務が発生する)可能性があることも述べられた。さらには、親会社には子会社管理の懈怠による会社法上の株主代表訴訟のリスクが考えられることなど、ビジネス法の問題もあることが解説された。このように、リクナビ問題が関わる法律は一般的なイメージよりもとても広く、AIビジネスは殆ど全ての法律に関わっている点に特徴があると述べられた。(続きはコチラから)
後半の講演は「テクノロジーは人を幸せにするか:ハピネスを科学して、幸せな社会をつくる」、株式会社日立製作所のフェロー、理事、未来投資本部 ハピネスプロジェクトリーダーの矢野和男氏が担当した。
矢野氏が日立製作所でAIの研究を始めるに至った経緯、2011年頃まではAI研究の冬の時代であったことにも触れ、最近のAIに関するマスメディア情報には間違っている部分も少なくないことを述べた。
先ず、人工知能、AIの実態とは何かという質問を会場に投げかけた。AIの中核となっているのはソフトウェアであるが、そのプログラムは、最近は100行程度しかないということを聞いて参加者は驚いたのではないだろうか。AIは統一的に物理学の方程式のように物事をみていくため、プログラムの行数は進歩するほど短くなり、究極的には10行程度になると言われているとのことである。
次に、AIはなぜ必要か。矢野氏は以下のように説明する。
企業は標準化した製品やサービスをできるだけ広く普及(横展開)することで社会の発展に貢献してきたが、今や多様化の時代を迎え、人々は他人と違うものが欲しくなってきた。しかも指数関数的に早まっていく多様化の変化に対応するうえで、標準化と横展開は妨げとなっている。この状況を打破するためには実態を知らなければならないが、そのためには会議室での議論ではなく実験と学習の飽くなき繰り返しが必要。とはいえ、時間を始めとして様々な制約条件や規制があるため、少ない試行錯誤で多くを学ぶ仕組み、即ち、データとAIが不可欠ということになる。日本がGAFAに遅れたのは技術の問題ではなく、状況に合わせて行動や原理を試行錯誤しながらどんどん変えていく活力を失ったこと、一旦ルールを決めたらそれを守ることに終始したからではないかと看破する。
そして、AIの実験と学習の例を分かりやすく、矢野氏が動画で4つのデモンストレーションを見せ、AIの本質、AIと倫理、ハピネスへと話を進めていく。
最後に両講師にご登壇いただき質疑応答のセッションを行った。以下に、質問と回答を記す。
以上