ちょっとしたおしゃべり、していますか?
BERC常務理事 中村 暢彦
私の家は通勤圏にはあり、今でこそ人口13万人強の「市」であるが、小学生の頃はまだ「町」であり、4万人にも至らない人口であった。中学校から都内に通学し今ではすっかり洗練された(?)自分であるが、ひゃっけい(冷たい)、いし(あなた)、けっぺ(帰ろう)、しゃあんめ(仕方ない)・・・最後の言葉は世界的プロゴルファーでも有名になったから場所がばれてしまうが・・・など自在に地元の言葉を操っていた。語尾に「だべ」をつけるのも日常であった。いわゆるチバラギ弁である。
随分と前の地元のバスの話である。客商売にチバラギ弁は向かない。自ずと無口になる。バスの運転者は車内アナウンスに任せてまず一言も口をきかない。タクシーもまた然り。乗車して降りるまでは、「どちら?」「○○円」これだけ。聞かれる前に行き先を言うと、最後に勘定だけを口にするだけ。都内に住んでいた叔父などは、「もう二度とここのタクシーは使わない」と憤慨していた。地元の者から見ると不愛想ではあるが、朴訥とした職人気質の人柄なのである。逆に都内のバスに乗って驚いた。「お待たせいたしました。○○行発車します。」「この先、左に曲がります。お立ちの方はご注意願います。」「次○○停車します。」「ありがとうございました。」テープでの車内アナウンスはあるのに、運転者はマイクに向かい声を出している。ずいぶん親切だなと感じ入った。(ちなみにもっと昔、私が小学生の頃はワンマンバスではなく、車掌さんが同乗していた。「次は〇〇、お降りの方はありませんか?」とにこやかに乗客に聞き、止まる場合は「願います」通過する場合は「オーライ」と運転者に伝えていたものである。片道運賃20円の時代だが・・・)
時は移って・・・10数年前に、市の端っこにニュータウンが開発され、新たなバス路線ができた。もちろん運転者を多く採用する。その頃である、バスに変化が生じたのは。運転者がマイクでアナウンスするのである。東京のバスと同じではないか。憶測ではあるが、新採用の運転者が多くなり、改めて運転者全体に教育を行ったのではないか。後ろ乗り、前降りの整理券方式は変わらないので、降車の際運転席の隣を通る。「有難うございました。」なかなか気分の良いものである。以前は不愛想過ぎたのが、良い塩梅になった。
バスの話が長くなったが、何事にも「良い塩梅」がある。会社における部下への権限移譲などはその最たるものではないか。部下の経験やスキルは考慮しなくてはならないものの、箸の上げ下ろしにまで上司が口を出すのは、部下を委縮させてしまうしやる気を削いでしまうことにもなる。部下とはいえ一人前の大人、仕事の種類によっては全面的に任せて、失敗したら自分がきちっと謝罪すれば良いくらいの度量を持ちたいものである。もちろん部下からの自発的な「報・連・相」を期待したい。
席の近い上司・部下がEメールのみで会話が成立しているような状況で、本当の意味での「報・連・相」は期待できるだろうか?もちろん記録に残すという点ではEメールは必要だし、若い世代ではLINEでの会話が普通になっている状況では行動としてある程度はしかたないのかもしれない。でも歩いて数mの間にいる上司・部下である。表情を見ながらの会話に努めようではないか。たまには仕事と関係のない会話でも良い。ちょっとしたおしゃべりをしようではないか。コンプライアンス経営には透明性の高い職場環境の形成が重要だと言われる。そうした「良い塩梅」の人間関係が仕事をより正しくこなしていくことにつながるのではないだろうか?・・・ちょっとしたおしゃべり・・・していますか?
以上
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