BERC:一般社団法人 経営倫理実践研究センター

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シリーズ:危機管理と広報 【第4回 自動車業界の不祥事と危機管理広報】

 BERC主任研究員 萩原 誠ERC主任研究員 萩原 誠

第4回 自動車業界の不祥事と危機管理広報

 過去20年近い自動車業界の不祥事の背景は以下の5つに集約される。 「横並び経営」「膨大な系列下請け企業」「縦割りの監督官庁の過剰介入」「国内市場の縮小」「行き過ぎたコストダウン圧力」である。また自動車業界の不祥事案件は、ほとんどが商品(自動車)の欠陥による「事故」と「リコール」に関わる「広報の失敗」である。人の命に係わる問題であるから、判明次第、即座に、洗いざらい情報開示することが自動車業界の危機管理(広報)の唯一最大の答えであることを肝に銘じるべきだ。また自動車産業の危機管理は日本の危機管理でもある。輸出額の約25%、貿易黒字の約50%、就業者数は約560万人で全就業人口の約10%を占めているからだ。

≪自動車業界の主な不祥事≫

年度 不祥事 内容 特記事項(背景)
2000 三菱自工のリコール隠し 乗用車のリコール資料を二重帳簿で隠ぺい 監督官庁への内部告発で発覚
2002年、2004年にもリコール隠し発覚
2006 トヨタの欠陥車人身事故 リレーロッドの破損 熊本県警が捜査・摘発
2009 アメリカでのレクサスのブレーキ不具合の疑念事故 アメリカ議会公聴会で集中砲火(トヨタ本社の社長が謝罪すべきだった) アメリカの自動車産業が政治マターであることへの対応の不備(労働組合、行政、政治家、メディア、そして消費者)
2014 タカタの欠陥エアバック死亡事故 クレームの放置(アメリカでの最初の死亡事故は2009年)
記者会見からの逃避
部品メーカーが自動車業界を翻弄
同族会社のガバナンスの欠陥が露呈
2017年6月民事再生法適用申請
2016 三菱自工燃費データ改ざん 軽自動車の燃費を5%~10%上乗せ 軽自動車のシェア競争激化
三菱自工の日産・ルノー入りの引き金
2017 神戸製鋼品質改ざん
三菱マテリアル品質改ざん
東レ系タイヤコードメーカー品質改ざん
子会社の品質問題
問題の放置と情報隠ぺい
メーカーの使命感と責任感の喪失
素材メーカーの品質の信頼失墜(=自動車メーカーの信頼を損ねた)
2017 日産(SUBARUも)の無資格検査員 裸の王様(社長)謝罪会見
(になってしまった)
コンプライアンス意識の欠落
完成車の有資格者検査制度の必要性に疑問も

【過去17年の自動車業界の危機広報】
〇三菱自工のリコール隠しの広報
 顧客の生命にかかわる欠陥を、会社優先で軽視し続けた経営者と組織風土が厳しく弾劾された。この時の広報対応も、事態の情報開示や説明責任に消極的で矮小化を図る行動をとり、メディアから批判された。東電福島原発のシュラウド(ひび)隠しと並んで内部通報・内部告発の一般化の嚆矢となった「事件」。

〇トヨタ 米国プリウス等欠陥ブレーキ疑惑の広報
 ①ことの重大性を見誤った初期対応広報の失敗=結果としてアメリカの世論を敵に回した=最終的にブレーキの欠陥はなかった(ことが後に判明)、②ダボス会議優先で社長の謝罪会見が遅れたこと、③技術担当副社長の「ブレーキの反応は"お客の感性の問題"発言、④内向きな社風と完ぺき主義、(結果としての)過剰な自信、それらの結果、アメリカ政府に1,000億円以上の巨大な賠償金を払わせられた。

〇タカタ欠陥エアバック問題の広報
 ガバナンスが全く機能しない同族会社。アメリカでの死亡事故を放置して追い込まれた。日経新聞だけの社長の取材対応で逃げ切ろうとした危機管理広報の異常さ。迅速な情報開示を怠って倒産にまで追い込まれた。海外での事故の発生を把握しながら責任を認めず、正式の記者会見もせず、2016年には民事再生法の申請に追い込まれてしまった。上場会社でありながら、同族会社だからで許されることではない。まともな広報機能が(同族会社であっても)あれば、倒産にまでは追い込まれなかった。情報公開や説明責任によって、経営責任やエアバックの欠陥が(結果として)早期に明確になっていれば損害はもっと少なくて済んだに違いない。

〇三菱自工の燃費データ改ざんの広報
 かっては「技術の三菱」と顧客の評価の高かった三菱自工は「規模の競争」「軽の過当競争」についていけず、クレーム隠しに走り、大事な信用を喪失した。この燃費データ改ざんの事実も、日産からOEM生産した燃費データの改ざんを指摘されて発覚した。このことがなければずっと公表しなかったに違いない。三菱自工の企業体質が改めて批判された。

〇素材メーカーの品質改ざんの広報
 神戸製鋼、三菱マテリアル、東レと立て続けに自動車産業への素材供給メーカーの品質データ改ざん問題が発覚した。神戸製鋼は社長が最初の謝罪会見を回避、のちにアルミ・銅部門の執行役員は「不正を認識していたが、指示はしていない」と世間が理解に苦しむ発表をした。神戸製鋼は広報部が秘書室と一体化している。このことも情報開示の遅れや世間の常識とのズレにつながった可能性がある。 機能素材関連の子会社の品質データ改ざんの謝罪会見をした東レ社長は言ってはいけないことを言った。データ改ざんの事実は1年前に東レの社長に報告されていたが、その事実を1年4か月後、突然公表したのだ。なぜ遅れたのか、と記者から質問され、「インターネットの掲示板に書き込みがあったので(非公表の方針を変更して)発表した」と説明した。社長の説明は重い。東レは都合の悪いことは隠ぺいする会社なのか、という悪いイメージを世間に与えてしまった。

〇日産の無資格者検査の広報
 2017年9月30日、日産自動車の無資格検査員による完成車検査が発覚し、西川社長が謝罪会見した。「9月30日以降は無資格検査員による完成車検査は是正しました」と発言したにも関わらず、2週間後に(実は現場の工場に指示が徹底せず)4工場で無資格員検査が続いていたことが判明し、西川社長は再度謝罪会見せざるを得なくなった。社長は恥をかき、会社は信用失墜した。西川社長の「悪気はなかった」「現場の課長と係長のコミュニケーション不足」という原因説明も能天気な釈明だった。

原発広報の教訓
自動車業界の危機管理と広報の教訓

≪リコールの迅速・完全・誠実な広報が危機管理そのもの≫
 自動車関連の不祥事での危機管理広報の失敗は、ほぼすべて自動車の欠陥による事故、もしくはリコールに関わるものだ。人の命に係わるものだから、判明後、直ちに、洗いざらい情報開示すること(広報)が危機管理の大原則であることを肝に銘じるべきだ。
≪三菱自工の(再三にわたるリコール隠しの広報)が経営破綻へつながった≫
商品の安心安全にかかわる不祥事は、洗いざらい・迅速に・誠実に、(たとえ商品や会社のイメージダウンになろうとも)広報することが(結局のところ)会社の信用・信頼回復につながることを明示した不祥事広報(この場合はリコール隠ぺい、矮小化)の失敗であった。
≪タカタの暴走は業界の反省事項≫
 ガバナンスゼロの同族会社の横暴を許してしまった自動車業界の官民の責任。「エンジンの開発」「デザインの競争」「環境技術競争」「燃費競争」の熾烈な競争の中で、顧客の安全にかかわるもっとも重要な(技術力を要する)エアバックの独自開発に消極的だったアセンブリーメーカーの責任は重大だった。その結果、自社の車の信頼性を損ねたことに、自動車業界の幹部たちはどう対応してきたのかを疑わせる「事件」だった。
≪日産・スバルの無資格検査員問題の本質≫
 日産の社長謝罪会見のお粗末さに批判が集中し、遅れて発表したSUBARUは誠実な広報対応で褒められたほどである。問題は消費者(世論)は無資格検査員による検査を法令違反としては批判したが、車の安全には影響ないと判断していることだ。そもそもこんな制度が(今もこれからも)必要なのか、それこそが問われるべきなのだ。自動車業界の産業界としての「プロパガンダ」も必要だ。

●萩原 誠(はぎわら まこと)
BERC主任研究員、広報コンサルタント
1945年鹿児島県生まれ。1967年京都大学法学部卒。帝人株式会社(マーケティング部長、広報部長)に勤務後、東北経済産業局東北ものづくりコリドークラスターマネージャー、日本原子力学会倫理委員、鹿屋体育大学広報戦略アドバイザー、静岡県東京事務所広報アドバイザーを歴任。
書著に「会社を救う広報とは何か」彩流社、「地域と大学~地方創生・地域再生の時代を迎えて~」南方新社がある。

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