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シリーズ:危機管理と広報 【第3回 埋めるべき原発の広報ギャップ】

 BERC主任研究員 萩原 誠ERC主任研究員 萩原 誠

第3回 埋めるべき原発の広報ギャップ

 原発を推進する国と原発再稼働を受け入れる国民には大きなコミュニケーション(広報)ギャップがある。その最大の原因は6年半前に発生した東電福島第一原発の爆発事故である。
 いま日本にある原発は42基。国の審査を経て稼働している原発は5基。審査中の原発が12基で、2017年10月2日、東電再生の鍵を握る柏崎刈羽6号機と7号機について原子力規制委員会は安全性を認定した。しかし地元の新潟県知事の再稼働同意の見通しは立たない。知事が要求している東電福島第一原発過酷事故の原因解明が進んでいないからだ。
 (筆者は)日本は最低限の原発を稼働させるべきだと考える。その理由は、原発はCO2排出ゼロ、化石燃料に頼らない電気エネルギーの安定供給、(異論もあるが)規模と償却後のコスト競争力、日本が止めても世界で稼働し続ける原発の先端的な研究、そして東電福島原発を含めた将来の廃炉の研究と推進のためである。
 にもかかわらず原発の再稼働問題が迷走しているのは、過去・現在・未来にわたって原発の位置づけ、原発のリスクについて、国民と原発推進者(国と電力会社と研究者)の広報コミュニケーションがこれまでも今も全く不十分なためだ。

≪原発に関する危機発生≫

  原発に係る事件・事故 問題点
1986 ロシアのチェルノブイリ原発事故 史上最大の原発事故(レベル9)
1999 JCO臨界事故 2人死亡
2002 東電福島原発シュラウド損傷隠蔽 内部告発で判明
2005 関電美浜原発配管破裂事故 5人死亡、効率化と下請け任せ
2007 東電柏崎・刈羽原発停止(外部トランス火災事故) 中越沖地震、安全神話のゆらぎ
2011 東電福島第一原発過酷事故 史上第二の過酷原発事故(レベル7)
世界の原発政策に大きな影響を与えた
2013 オリンピック誘致で首相は「福島の汚染水はアンダーコントロール」と世界に発信 「あきらかな嘘は信頼喪失につながる」
2015 9月(2年空白後の)九電川内原発再稼働 現在全国で5基再稼働中

【原発広報の問題点】
〇原子力広報の司令塔が存在しない=縦割りの弊害
 もっとも顕著な弊害が、福島原発水素爆発直後に文部科学省管轄のSPEEDI(放射性物質の拡散方向のシミュレーションデータ)の情報が開示されず結果として、避難民が、放射能が風向きに沿って流れた飯館村方面に避難してしまったことだ。原発を管轄する経済産業省との縦割りの無責任体制の弊害だった。その状況は今も余り改善されていない。
喫緊の課題になっている高レベル放射能廃棄物の地下埋設候補地の選定作業の迷走も同じ弊害の例である。
 原発推進派の研究者はこう言う。「高レベル放射能廃棄物は40年間、冷却してから地下に埋設するのですが、40年経てば放射線も発熱量も1000分の1程度になり安全に埋められます。埋設後は3000年も経てば放射能は100万分の1程度、人間が手で握れるウラン鉱石の10倍程度に落ちるのです」(北大奈良林名誉教授発言「原発とどう向き合うか」新潮新書)
 一方、2017年8月26日に放映されたNHK「週刊ニュース深読み」では「原発の使用済み燃料(高レベル放射能廃棄物)は約40年間冷却してから地下に埋設するのですが、使用前の放射能レベルにまで下がるのに約10万年かかります」と説明していた。よほどの時間と知る意欲のある国民でないとこのどちらが正しいのか知る由もない。

〇安全神話に固執して、マイナス情報を開示してこなかった
 国も電力会社も原子力発電の話は素人に説明してもわかりにくいので、できるだけ説明しないことにしていたことが否めない。「寝ている子を起こすな」が原子力村の広報(情報開示・説明責任)の原則になっていたのである。結果として情報隠ぺいにつながったことも、一度や二度ではなかった。その数十年の積み重ねが2011年3月の東電福島原発事故をきっかけに国民の原発に対する不安感と不信を根深いものにしたのである。

〇誰が正しい(信頼できる)情報を発信しているか、国民は未だに確信が持てない
 2011年3月12日、原発の最初の水素爆発が起こってからの1週間、福島県民はもちろんのこと少なくとも関東周辺に在住していた数千万の国民は福島原発の水素爆発や上空から放水するヘリコプターのテレビ中継を、かたずを飲んで見守っていた。今も6万人近い住民が避難を余儀なくされている上に、この福島原発の廃炉作業の完成時期は発表のたびにずれていく。どれが正しい情報なのか、国民には分からない。

〇東電福島第一原発事故の国民のトラウマが解消されていない
 原発をゼロにすることは非現実的である。一方で被災地は当然のこととしても、北は北海道から南は九州まで(沖縄には原発がないので除外される)原発事故に対する国民(住民)の不安感は拭い去れていない。

原発広報の教訓
≪東電福島原発事故の国民の根強い不安と不信を打ち消す努力が不可欠≫
 3.11に始まる福島原発の過酷事故の発生から6年半、未だに原発水素爆発の原因は究明されていない2016年7月10日の鹿児島県知事選挙で九電川内原発の立地自治体である薩摩川内市では予想に反して原発反対を掲げた知事候補が、わずかに7票差とは言え勝利した。おそらく原発のない沖縄県民を除いて、多くの国民が国のエネルギー政策と原発の安全性に不信と不安を抱いていることは確かだ。その不安と不信を取り除くには福島原発の原因究明と廃炉工程の「情報発信」を地道に、徹底的にやるしかない。

≪原発の必要性の説明責任は原発推進派にあることの認識が必要≫
 原発反対派はどんな説明を聞いても反対する。だから一般の国民に、なぜ原発が必要なのかを、粘り強く説明し、理解してもらい、納得してもらう必要がある。すでに稼働している九電川内原発周辺の住民も、2016年4月の熊本地震の体験によって川内原発に不安を抱いている。しかし十分な安全の説明はなされていない。分かりにくいことを(素人に)分かりやすく説明することがプロフェッショナルの仕事である。

≪不都合な真実も積極的に情報開示する≫
 危機管理広報の鉄則は「不都合な事実もすべて、迅速に・詳細に情報開示すること」である。不幸にして原子力発電に関してはこの大原則が守られてこなかった。いわゆる原子力村の「原子力発電の難しい専門事項を素人の国民に説明すれば、寝ている子を起こして混乱するばかりだから情報開示はしない方がいい」という思い違いが原因である。

≪マイナス情報に流れがちなメディアコントロールの強化≫
 福島原発事故が発生する前のデータ(原子力案安全システム研究所論文)では原発のメリット報道とデメリット報道は前者が45.4%に対して後者が76.3%であった。この状況は、福島原発事故後はさらに差が開いている。この差をなくするには相当な努力が必要である。「原発再稼働問題」が政治マター化していることの弊害もある。いずれにしても原発がなぜ必要なのかの情報発信が不十分なことは否めない。それを報道しないメディアを(暗に)批判することは天にツバするようなものだ。

≪"トイレのないマンション"の打開策の広報を最優先≫
使用済みの高レベル放射能廃棄物の処理が「地下300mの地下埋設」であることは世界の共通認識だ。それでは日本はどこに地下埋設するのか。かつては自治体からの申請に基づく形をとっていた。2007年に過疎対策のために町長が受け入れを表明した高知県東洋町では、たちまち住民の反対運動でつぶされた。それから10年、地下埋設候補地は国が選定して地元を説得する形に方針転換した。2017年7月に松山で開催された地質学会で岡山県の吉備高原周辺の地質が3500万年変動していないという発表があった。それが事実とすれば地下埋設地の候補地をこの地域に絞って、地域住民と広く国民の合意形成を図るのも一つの方策ではないか。

●萩原 誠(はぎわら まこと)
BERC主任研究員、広報コンサルタント
1945年鹿児島県生まれ。1967年京都大学法学部卒。帝人株式会社(マーケティング部長、広報部長)に勤務後、東北経済産業局東北ものづくりコリドークラスターマネージャー、日本原子力学会倫理委員、鹿屋体育大学広報戦略アドバイザー、静岡県東京事務所広報アドバイザーを歴任。
書著に「会社を救う広報とは何か」彩流社、「地域と大学~地方創生・地域再生の時代を迎えて~」南方新社がある。

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